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飛行機と地下足袋


野営2日目。昨日と今日の半日、草刈りの作業を頑張っていた現場があったのだけれど、境目が分からず電話で確認してビデオ通話で現場を映しながらしゃべってたら、ここ違う現場ですよ!って言われた、なんだと。

1日半違う山の草刈りをしてしまっていたらしいけれど、早めに気付いてよかった、正しい現場に来てみたら少しやりやすそうで、電波もある、よかったと前向き。

昨日の寝床



最近はちょっとだけ現場がんばるようにしている、今日は痛い目に何度かあった、掌に埋め込まれてとれないタラのトゲがタッピングするたびにうずく。

草刈りの回転刃がこっちに断面を向けた手首ほどの丸太を引っ掛けて猛スピードでビリアードのキューみたいに突っ込んできて、伸展しきった膝頭に激突して、いってぇ!と叫ぶ。

しばらくそのまま作業してると気にならなくなったけど、作業しながら思った。作業中はアドレナリンが出てるから、痛みはあまり気にならない、でもさっき、いってぇって言うたってことは、これ、あとで痛なってくるパターンやな。

後ろの山の草を刈る


で、さっき車でエアコンつけてメシ食ってたんだけど、外に出て立ち上がってみてびっくり、膝が痛くて歩くのも歩きにくい。

でも何故だろう、高揚するなにかが今はある。
仕事に前向きに、やるぞって気分だ、仕事終わりに坂道のアスファルトの道が現場をまたいでいて、山で作業してる人間からすればアスファルトなんて贅沢なもの、うきうきして坂道ダッシュしちゃった、でも気がつけば5時まわってて、陽が沈んでいく、沈んでからの夜の沈黙は長いのだけど、沈むまでの時間はなにぶん忙しい。

陽が沈みはじめると、どこに隠れていたんだろうか、冷気が辺りに立ち込める、この時間が1番焦る、アスファルトの上にグランドシートを敷き、ワンタッチテントを展開、中に銀マット敷いて敷布団に展開しっぱなしの寝袋2枚に毛布1枚放り込む、そのままテントに一緒に入って、片面の入り口を開けて外気を取り込みつつカセットコンロで湯を沸かし、同時にテント内を温める、スッポンポンになって熱湯を手拭いに染み込ませて全身を拭きあげる、手だけ出して絞っては、また熱湯をかけて、ちょっと全身乾くのをまってあったかい服に着替える。

次に米をコンロで炊く、炊いてる間にシャドーボクシング、アスファルトは動きやすい。米が炊けたら昨日作っておいたスパイスカレーにレトルトカレーを一袋入れて割り増し、これがうまいんだな。で、車のエンジンかけて車内で食う。至福、生きてる。

今日の寝床



陽が沈む、6時ごろにすでに夜空には星が散りばめられて驚いた、天の川まで見える。しばらくして外にでると、あれ?さっきより星が少ないなぜだろうって、山を見るとエグい色の月が山の切れ目から御登場なさってる。

オレンジのビームを放つおつき様だ、これが目立って星々は隠れちゃったのか。

夕陽が戻ってきたのかと思ったら月だった

飛行機が飛ぶ、草刈りをしてると空にはいっつも飛行機が飛んでる、飛んでる飛行機はまるで俺と対極の生き物のように感じられる、あんなにも無重力に空を渡る飛行機め、ちくしょうめ、俺はまるで重力の権化のように、のっしのっし一足ごとに濡れ湿った山の有機的な土踏みしめて、ムンと立ち込める黒い土のかおり、斜面では鼻先に地面くっつけながら、草を刈る。

重力やら、痛みやら、あぁ命ってばクソ重てぇなぁ。まるで昆虫のように健気に生きて、毎日どっかでテント張ってさ。どっかの水汲んで、コンロで湯を沸かして、何か作って食う、風呂も入らず、拭うだけで、静けさと不動な山に移りゆく景色や温度、気候、雲雲、太陽もせわしないな、星々も同じ様ではない諸行無常、斜面からの落石、もう2度とあの崩れた壁面には戻らない石たちよ何を思う。

<投げられた石にとって登っていくことが善でもなければ、落ちていくことが悪でもない>

何か言わなければ気が済まない人間たち、何かしなくては気が済まない人間たち、生きていることにまだまだお釣りをねだる人間たちめ、かわいくない大人にはなりたくないな。

鉄の翼広げてジェット噴射で空を飛ぶこともなく、のっしのっし歩いて草木とたわむれる日々だ。善でもなく悪でもない。無常とは草木が毎年生えてくるってことだ、それを人力で一本一本刈るという徒労、これが徒労でなくてなんだろうか、でも振り向けばあんなに小さかった苗木たちが風に吹かれて揺れている。

俺は自然の一部みたいに埋めたドングリ忘れるリスみたいに生きている、徒労の中で生を燃やし、また飽きもせずメシを食い、また飽きもせず寝床を確保して寝る。テントの外では飛行機の音が空を響かせてる、その客室には綺麗な格好をした人々が乗っている、どっかに飛んでいってる。

俺は山の道路のテントで文章を書いてる、最近では街のネオンもこの山のテントも同じようなものに思うようになってきた、この静寂も充分ににぎやかだし、スマホもあれば本もある、電気もあれば食い物もある、俺の今日の生を満たすのにかかる資源は俺のこの軽トラに積まれた荷物があれば大満足、東京が一個あっても多分俺の生にとって必要な資源はこのテント内にあるものだけで充分だ。

リモート書斎

テント内に凝縮された、俺のおもちゃたちはいちいち移動する手間もなく手洗いを探す必要もなく、食うメシに迷う時間も必要なく、なにもない。生の問題を解決しさえすればあとは色々な活動に打ち込める読書に作文、だらだぁら。

専念という意味ではテント野営は素晴らしい、もう慣れた、どうも寒さもさほど問題ではないように思う。別に、って思う。当たり前になってきたこの日々よ、別に俺はチャレンジャーでもなければ運命と闘う人間ってわけでもない、自分をいじめてるわけでもない、自分は毎日自分で癒してる、よしよしして、しんどかったら休ませて、しんどくないように生きれるように考えた結果がこのスタイル。

別に肯定したいわけでもされたいわけでもないが、俺という石ころはここにコロんと転がってきただけの話だ、この闇夜の静寂は愛おしい、自分の吐息に温もるテントで、ぼーっとする時間、この、これらの、自分と在る時間というものは現代でもっとも高級な贅沢品なのではないか。地面から1センチほどのところで寝て、鼻を斜面にくっつけて励む日々の中、この重力の1番下の方から見上げれば世界の隅々までよく見えるようだ。

今が生成していく
色々なところから集まった今が
俺に俺のすることを為し
自らをあたためる
振り返れば過去
見渡せば未来
踏みしめれば今

痛みや重みが無ければ湯気のように冷たく遠ざかってしまうものがこの僕というカタチをとどめていて僕という選択を神々が生きている

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