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浜のユリ

目を覚ますと、見知らぬ天井が目の前に広がる。
窓から覗く景色は、いつもの庭とは異なる。
地中海の風が吹き抜けるテラスの中庭には、松の木がそびえ立ち、多肉植物が花開いている。
その上に広がる無限の青、それは海だ。イタリアに来たのだ!

待ち望んでいたバケーションのため、私はサルディニアに足を踏み入れたのだ。
テラスのガラス扉を開けると、湿度の高い暑い風が優しく顔を撫でる。気持ちがいい。
夜中に到着したため、今朝初めてこの景色を見た。

朝食までまだ数時間あるので、浜辺を散歩することにした。
リゾートの建物を抜けて、木でできた道にたどり着く。
少し歩くと、降りるための階段を見つけた。しかし、なぜ普通に降りられないのだろうか?

階段の横に立っている看板を見る。「注意、砂丘保護区」と書かれている。何だろう、それは?
足元を見れば、見たこともない植物が並んでいる。
優雅な銀色の葉と山吹色の花の間に、かわいらしいピンクの多肉植物が咲いている。

その中で目を引くのは、砂の中に生えるユリに似た白い花だ。
他の植物たちとは異なり、その姿は寂しそうでありながらも、優雅に立ち上がっている。
こんなところでユリが咲いているのだろうか?と疑問に思う。
突然、風が吹き始める。甘く奇妙な香りが花に立ち込める。
これが、あのユリの香りなのか?近づいて花を嗅いでみる。

そうだ、この真っ白な不思議なユリの香りが、こんなに遠くから香ってくるのだ。
砂丘では他の植物が多くとげを持っている中、この純真なユリだけは無防備だ。さらに考えれば、愛しい運命の人を待ち続ける少女の姿が浮かぶ。
いつか必ずやってくるので、辛抱強く待ちなさいと念を押されているようだ。

しかし、乾燥した環境で生き抜くために、強く、生きたいという意志を感じる。
簡単なことではないだろうに、それでも生きているのだ。
自然も人間と同じだと感じる瞬間だ。

朝は空高くのぼるので、帰る方がいい。部屋に戻り、携帯とサングラスを手に取り、レストランへ向かう。
しかし、頭から先ほど見たユリの花の映像が離れない。

朝食を気にせず、携帯で検索する。「地中海のユリ」と入力し、結果を探る。
やっと欲しかった写真を見つけた!それはパンクラチウム・マリティムンという植物だ。

確かにユリではない。彼岸花と同じ仲間なのだ。
彼岸花とパンクラチウム・マリティムンは全く異なる存在だ。太陽と月、黒と白、それほどまでに異なる。

朝のコーヒーをゆっくりと飲みながら、お花の兄弟について考えている。
次にビーチに行くときは、パンクラチウム・マリティムンを楽しみにしたい。
このバケーションは最高だった。体も心も癒され、新たな活力を取り戻したのだ。

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