インドの論理とは

豊島晋作がお届けするインドの論理。
先進国が没落していく中、中国も沈んだ。
これからの世界秩序はどこが担っていくのか。

アメリカの覇権は終わります。
このままでは、アメリカに追従する日本もいずれ沈んでいきます。時間の問題。

これからの世界はロシアを中心としたBRICS勢力が世界秩序を構築するのか。
あるいは、そんな単純な話ではない均衡バランスをとった世界が訪れるのか。

インドはBRICSに入ってはいますが、これまでの外交を見ているとどこにも依存しきらない中立的な立ち位置にいると感じます。

西側世界では、スイスが中立国として役割を担ってきましたが、中立国とはほど遠いDSの隠れ蓑として機能してきました。

クレディスイスの破綻は、まさに悪事を隠すための組織として存在し、ついには破綻を助けるためにルールを破りました。
「債権者よりも株主保護」という選択は、まさに中立とはほど遠い。
ダボス会議という世界統治機構の会議が行われるのもスイス。

彼らの隠れ蓑としては打って付けだった。
そんな世界はいずれ崩壊する。世界中の反グローバリズム勢力によって。

真の中立国とは、外交面、軍事面両方でバランスをとれる国だと思います。
ロシアはアフリカを西側の植民地からの解放運動。

世界一の人口を誇るインドはどうか。
インド人はとても賢い。
ユダヤ人は金融面で高い能力を発揮しているが、インド人は経営者なのかもしれない。





インドの特徴


インド:14億2860万人
中国:14億2570万人

インドの人口中央値28歳と若い。

今年無人探査機の月面着陸も成功させた世界で4番目の国家。
技術力の高さも際立っている。

今年はG20 も開かれた。


ジャイシャンカル外相


モディー首相の側近。
駐アメリカ大使。
駐中国大使。
外務次官。
エリート外交官。
日本人と再婚。
多言語を話せる。(7カ国語)

「インド外交の流儀」(白水社)という著書。

世界の外交官の必読書かもしれない。
豊島氏は、この本から引用してインドの外交を解説していくようです。

以下、人物のコメントは引用枠で表示します。


日本に期待するインド


インドは欧米とは違う、中国とも違うという自認識。
日本に駐在した経験。
日本史への理解。
関ヶ原の戦い、赤穂浪士の話。
日本はもっと存在感を発揮し、発言力を取り戻すべきだ。



インドへの期待

(p17、p19)
「現在の世界は、インドに大きな存在感を発揮するよう求めてくるだろう。」
問題は、インドが今後も台頭し続けられるかではない。そのベクトルは当然のごとく保証されている。問われているのは、いかにしてそれを最適なかたちで実現するか。


インドの実利主義とは


ロシアを非難する国連決議に棄権
欧米から非難された。
ロシアを擁護してはいないが、欧米とは一線を画している。
中立的な立ち位置、徹底した実利主義。

  • ロシア産原油の輸入。

  • 防衛装備の約60%をロシアに依存。

  • イギリス・フランス共同開発のジャギュア攻撃機を運用。

  • フランス製戦闘機も運用。

  • 海軍の潜水艦はドイツ製。

  • 最大の貿易相手国はアメリカ。

  • クアッドの構成国。

  • 上海協力機構の加盟国。

  • 中国企業の5Gサービス提供を認めない。

  • インフラ整備で中国を排除。


中道主義


1962年、印中国境紛争 → アメリカに航空支援を要請。
パキスタンとの対立 → ソ連と事実上の同盟関係に。
危機が後退 → 中道路線に回帰。

「インドの取り組みは、冷戦によってもたらされた。
二大陣営から最大の利益を引き出すことだった。
西側から経済や食料支援の獲得に成功する一方、ソ連陣営から工業化のための連携を求めていった。」

(p123)
ヘッジをかけることはデリケートな行為だが、多極世界においては逃れるわけにはいかない。

かつての日本の全方位外交に似ている。

安易な中道路線への回帰 → 国際社会から非難。

(p39)
過去への回帰はわれわれの限界を際立たせる一方で、信頼を損なってしまう。
(p127)
「今のインドを一言で言い表せるフレーズは今のところ見当たらない。」

これまでの中道から変化はしていくが、実利は追求する。


インドの世界観


(p33)
過去20年にわたり中国は戦いをすることなく勝利を収め続ける一方、アメリカは勝利を収めることなく戦い続けてきた。

アメリカのアフガニスタン、イラクでの事実上の敗北を指している。
2001年の同時多発テロ以降、アメリカは8兆ドルとも言われる費用を投入して対テロ戦争を戦ってきた。
1000兆円を軽く超える金額。

一方で中国は着実に経済成長を遂げてきた。
WTOに加盟して世界貿易の恩恵、グローバリゼーションの恩恵を受けて国力を増大させてきた。

(p33)
国際システムの推進者だったアメリカはもはやそれを覆そうとする存在になってしまった」

世界は多極化、パワーが分散している状況になっている。
多極化 → より高い地位の獲得を視野。

(p147)
「西洋が支配的な地位にある理由、西洋が確立した制度と慣行。
これを支えるのが西洋の利益に資するストーリーであり、それはまだ強い。」
(p152)
「西洋を軽視するのはとてつもなく愚かな行為だ。
近い将来に西洋が没落すると宣言するのは控えに目に言っても時期尚早だ。
軍事バランスは現実をよりクリアに突きつけている。
世界の国防支出は西洋諸国の支出が大きな比重を占めており、アメリカの分を除外してもそれは変わらない。
過去25年間で戦われた戦争について考えてみてほしい。
ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク、リビアそしてシビアである。
原因や結果が何であれ、全てのケースで西洋は武力を行使し著しく改良されたテクノロジーとその適用を実践し、政治的圧力をかけるという明確な姿勢を実行に移してきた
。」

やはり欧米の軍事力は強大だと言っています。


中国への見方


(p142)
「中国人は自分たちの現在の立場を正当化するために、一世紀にわたる屈辱の歴史を持ち出してくることがよくある。
だが、もし異議申し立てをする資格があるとすれば、それは二世紀にわたってヨーロッパによる蹂躙と略奪を経験したインドであるべきだろう。」

インドの被害者意識が実利主義の根底にあるのかもしれない。
欧米というのは、ウクライナ戦争を巡るロシアの侵略に対して、インドが中道である中立であるということをかなり批判するが、インドからすると「欧米、お前たちはそんなこと言う資格はないだろう」と言っている。

欧米 → かつて世界を侵略。

「今も欧米は自分たちに都合のいい時は軍事力を行使する。
そして、民主的ではない独裁政権と付き合ってるだろう。
お前たちも結局は実利主義だろう。」

欧米 → 自分たちも実利主義。

「何を今更欧米は言ってんだ。自分たちが実利主義だと批判されるいわれはない。」


ニルパマ・ラオ元駐米インド大使


アメリカの外交専門誌フォーリン・アフェアーズの論文。

(ラオ元大使)
インドは短絡的で偽善に満ちた欧米が示すストーリーには、もはや忍耐を失いつつある。
ロシアがウクライナで人権を侵害しているという点ではヨーロッパやワシントンの主張は正しいかもしれない。
だが、欧米諸国もベトナムからイラクに至るまで、同様に暴力的で不当非民主的な介入を実施してきた。
従って、ニューデリーはロシアを孤立させることを呼びかける欧米の求めには応じない。
ニューデリーがモスクワを非難しないとしても、ロシアの侵略を支持しているわけではない。
モスクワは、領土主権と領土保全の原則、国際人道法内政不干渉の原則に明らかに違反している。
だが、これらのルールに違反しているのはロシアだけではない。
アメリカも主権の尊重内政不干渉へのコミットメントから見て、問題のある行動をとっている。」

過去のイラク戦争、これは「大量破壊兵器がイラクにある」という理由でアメリカは戦争を仕掛けたわけなんですけれども、結局大量破壊兵器なかった。

(ラオ元大使)
「それでもインドは過去におけるワシントンの問題行動に対して、制裁や怒りを持って対処したことはなく、アメリカによる他国の侵略に反対はしてもワシントンとの関係は維持した。
ニューデリーは、欧米が何と言おうとモスクワに同じアプローチを取る権利を持っている。」
欧米は自国の利益のために暴力的な独裁国家と日常的に取引をしている。
例えばアメリカは石油を得るためにベネズエラとの関係を改善しつつある。
ヨーロッパはアラブ湾岸諸国の抑圧的な政権とエネルギー調達計画を結んでいる。
それでも、自国の外交政策が人権と民主政治に導かれていると主張するのは驚くべきことだ。少なくともインドは世界の良心の擁護者だとは主張していない。」

ジャイシャンカル外相
(p130)
「何よりも変化する国際秩序にアプローチしていく中で、教条的であってはならないのである。」
(状況や現実を無視して、ある特定の原理・原則に固執する応用のきかない考え方や態度。)

ベネズエラ
原油埋蔵量は3008億バレルと推測され、世界最大と言われている。)

マティアス・スペクター教授


フォーリン・アフェアーズの論文
アメリカはその利益につながる場合には、権威主義的な政府を選択的に支援し続けてきた。
フリーダム・ハウスが「独裁的」と分類する50カ国のうち、35カ国が2021年にアメリカの軍事援助を受けている。

フリーダム・ハウス
(1941年にナチス・ドイツに対抗して、自由と民主主義を監視する機関として設立された。)


過去の植民地化に怒っていないインド人

(p143)
インド人の間に怒りがほとんど見られないのは驚くべきことだ。」

国内での反西洋感情を大衆の導引に使ってこなかった。
つまり、何か国内でまずいことが起こると、これを西洋を敵にして反西洋感情を利用して、大衆をまとめて国内を結束させるということには使ってこなかった。
これが中国と非常に異なる点です。
これが欧米と今前向きな関係を築く土台になってるというのは非常に大きい。


インドと中国

アメリカの次の覇権国を意識する中国と、その次を意識するインド。
この両者はどう互いを見てるのか。

(p159)
「インドと中国が協力して事に当たることができるかどうかが、アジアの世紀を決定づける。
両者の関係は疑いなく、今の時代の中で最も重要な関係の一つだと言える。」

国境紛争を中国と抱えているが、台湾ではなく中華人民共和国の国連代表権を一貫して支持しています。

アメリカ、日本、オーストラリアは、インドをクアッドの枠組みに引き入れて対中包囲網の重要なパートナーにしようとしてるわけなんですけれども、なかなか簡単で はないだろうなっていう現実が見えてき ます。

(ラオ元大使)
「ワシントンは、インドのクアッド関与を同盟だと勘違いしてはならない。
ニューデリーが北京に対するワシントンのバランサーとして機能することはない。
インドは米中対立では中立を維持している。」

2022/8月、当時のペロシ下院議長が台湾を訪問した際、インドは米中に自制を求めてこの地域の現状を一方的に変更しないように求めた。

(ラオ元大使)
「扇動的な訪問だ」


グローバルサウス諸国


インドはグローバルサウス諸国に大きな支持基盤を持っていると言われています。
グローバルサウス(新興国や発展途上国)は、中露を敵に回してアメリカ陣営に組み込まれることを警戒している。
グローバルサウス諸国は米中露の対立競争に巻き込まれたくない。
目的は経済の発展、自国の発展なのであくまで国益にプラスになるように行動する だけ。

(マティアス・スペクター教授)
「ウクライナ戦争を考えてみると ロシアが完全に叩きのめされるのも、グローバルサウスはあまり好ましくないと見ている。」

ロシアぐらいの大きな国の空白というのは、世界を不安定化させてしまう。
あくまで、世界が米中露印などが多極構造になり、パワーが拡散していることが、グローバルサービスには良い環境。

冷戦期の米ソ二極体制の「安定」は、核保有超大国が単に世界を滅ぼさなかっただけ。
ヨーロッパと北米以外の地域、ベトナムやアフリカでは血生臭い戦争をやっていたので、全然平和ではなかった。

中国インドの台頭は、グローバルサウス諸国には良い環境。
インドはグローバルサウス諸国のまとめ役。


カウティリャ的政治

カウティリヤという人物。(紀元前4-3世紀の戦略家)
初代チャンドラグプタ王(紀元前340年 - 紀元前293年)の宰相。

カウティリヤは、戦略を含む権謀術数や勢力均衡など、リアリズムに基づく統治の考え方を構築。

裏切りの歴史

(p74)
「日本の関ヶ原の戦い、インドのプラッシーの戦いといったより現代に近い世界における運命の決戦で結果を左右したのは、結局のところ裏切りなのだ。
ただし、策略が名誉の名の下に正当化されることもある。
日本の「赤穂浪士」の物語は好例と言えるだろう。」

関ヶ原の戦いは、西軍石田三成側だった小早川秀秋が裏切って、東軍徳川方が勝利する。
プラッシーの戦いは、イギリス東インド会社とフランスの後押しを受けたベンガル太守(ベンガルの地方長官)というインドの地元の人の戦いだった。
結局、ベンガル太守軍の軍司令官の裏切りでイギリスが勝つ。
どちらも裏切りという要素があり、重要な部分になる。

策略が名誉の名の下に正当化されるという赤穂浪士の話では、仇討ちの気持ちを抑えつつ最初は幕府の命に従ったが、転じて仇討ちを貫徹したことを指しているのか。

策略やリアリズムだけでは駄目で、やはり正しさが重要であると。
「正しさ」=道義的な正当性は極めて重要

第二次世界大戦の日本

(p75)
「とはいうものの、世界が求めているのはルールの順守であり規範の尊重である。
日本が真珠湾攻撃を行う直前に、それが道義的にも手続き的にも正当であることを示すべく、正式に宣戦布告しようとしたのはそのために他ならない。
宣戦布告が間に合わなかったことは、ルーズベルト大統領にとっては政治的支持を取り付けるにあたり、絶大な助けとなった。」

ルーズベルト大統領は、日本が宣戦布告せずにパールハーバーを攻撃したので、「日本は卑劣だ。あんな国はやっつけなきゃいけない。」と、国内世論を導引して日本との戦争に向かっていく。
これが、ルーズベルト大統領の絶大な支持を得ることにつながった。

欧米の当局者が書いたり、学者が書いたりする本では、あまりこういう記述では出てこないと思います。
戦勝国は「真珠湾攻撃は、日本が宣戦布告しなかった。日本の外務省の過失ではなくて、完全な騙し討ちなんだ。」という一義的な見方が多い。
ジャイシャンカルが書いたようには出てこない。

真珠湾攻撃の直前に宣戦布告ができなかったというのは、日本の外務省、ワシントン大使館の重大なミスであるとされています。
宣戦布告が遅れたので真珠湾攻撃がされてからアメリカの国務長官ハルに伝わる結果になった。だから「日本は卑怯だ」と言われ続けてきた。

仮に宣戦布告が先にあって攻撃直前に宣戦布告がされていたら、どこまで道義的かどうかという議論が出てくるかと思います。
それでもある種、道義的手続き違法としたことになるかもしれません。(豊島氏意見)

ジャイシャンカルは、やはり一歩踏み込んで日本を少し理解しているようにも見える。

「道義的に高い立場を維持することは、多くの点でリアルポリティクスの究極的課題なんだ。」

つまり、ジャイシャンカルの本では、規範道義的に高い立場というのは国際政治では重要だと自分たちが正しいと、分かりやすくストーリーで示すことが決定的に大事だ。
それが世界の国際世論を形成していく上で自国を有利な立場に導くんだということです。
日本も基本的な宣戦布告を一応しようとした。しかし間に合わなかった。その結果、アメリカに道義的に高い地位を与えてしまったというようなことを書いているわけなんです。

開戦に関する条約(条約による宣戦布告義務)


日本へのインドの見方


ジャイシャンカルの見方ですが、日本への期待です。

(p187)
「世界において過小評価されている要素があるとすれば、それは日本のプレゼンスに他ならない。現時点では評価不可能な出来事が2つある。
一つは、将来に向けた日本の姿勢で、戦略的計算の中に巨大な軍事力を持った経済大国が復帰しつつある。」

これは日本のことを言っているわけですが、これまでの日本についてインドはどう見ていたか。

(p192)
「今日の中国以上にアメリカにとって巨額の貿易赤字を計上した後、80年代に日本の攻勢は後退した。
また、自国の願望を日米同盟という枠の中に抑えることを意識的に選びもした。」

日本が対米関係を重視してきたことは、インドからはこう見えるんだなというのがわかる記述です。
そんな日本なんですが、ジャイシャンカルから見ると変わろうとしてるというふうに見ている。

より大きな責任を引き受け、パートナーシップの拡大を進めていく中で、日本は直近の過去から踏み出そうとしているのだ。

おそらく、安倍政権以降の防衛力強化などの動きが念頭にあると見られます。
ではその日本とインドの関係については

(p193、195)
「日本との協力が経済面、さらには安全保障面においても絶大なポテンシャルを持っていることは、インド政府では広く認識されている。
インドの政治の中で、印日関係は超党派的な支持を得てきたという点で日本はユニークな存在だ。」

要するに、日本と関係を強化すべきという点については、インドは与党も野党も賛成しているということなんです。

日印関係が冷え込んだ時期


1998年にインドが核実験を行った時です。

(p201)
「日本がインド非難を中心になって進める国になった。」
(理由)
「アジアの国としての性格を、西側の利益と調和させるという日本の二重性にある。」

やはり、核実験というのは被爆国日本としてはどうしても心的に受け入れがたい面ありますから、この点はどうなんだろう、どう理解してんだろうなという疑問も感じました。
ただ、現在の日印関係は決して悪くないということで、ジャイシャンカルによりますと、「現在の関係の基礎は、2000年に森喜朗総理が訪印した際に築かれた。」とも記されています。

インドの独立に援助した日本

(p200)
「日露戦争の日本の勝利というのは、インドはアジア復興の幕開けだ。
今日でもインドの民衆は日本の存在とをネータージー・スバース・チャンドラ・ボースの物語を不可分のものととらえている。」

チャンドラ・ボースというのは、1943年に日本政府の援助を受けてイギリスと戦った、インドの独立を目指して戦った人物。
インパール作戦にも参加しています。
インパル作成ひどい 作戦だったんですけれどもインド人にとっ て日本はインドの独立を支援してくれた、国を応援してくれた国だというふうに見られている。
インドの独立運動を戦った人物としてはもう一人、ラース・ビハーリー・ボースもいます。
この独立運動を志した、独立と戦った2人のボースは日本と関係が深いということです。

第2次 対戦後の東京裁判について

(p201)
「東京裁判に対し、インドは独自のスタンスで臨みラダ・ビノード・パール判事の名前は今でも多くの場所で取り上げられている。」

ラダ・ビノード・パール裁判は、平和に対する罪と人道に対する罪は事後法であって、国際法上の日本の戦犯に対して有罪にはできないということで無罪を言い渡した人物です。
判事はあくまで国際法的には無罪と言ったわけで、決して日本に道義的な責任がないとは主張していません。
日本の戦時指導者に対しては痛烈に批判しているという指摘もあります。

インドが日本のことを独立を支援した存在だと見ていたこと、パール判事が他の戦勝国の判事とは一線を画したということ、そしてインドが先行の戦後のサンフランシスコ講和条平和条約に参加しない独自に日本への戦後賠償請求権を放棄しているということもありますし、これは事実なわけです。
こうした、両国関係はプラスに作用するような要素が歴史的にはあるわけなんです。

日本への進言

(p199)
日本側はそれまでの安全地帯から踏み出して、アジアの現実と折り合いをつける必要がある。

安全地帯が何を指すのか明確ではないけれども、おそらく今まで日本の平和主義の名のもとの外交安保政策における、ある種の事なかれ主義のようなもの、そういったものからも脱却するように求めているんじゃないかというふうに思います。


豊島氏意見について


真珠湾攻撃の下りの部分で、豊島氏は次のように解説しています。

「欧米は自由や民主主義を普遍的なストーリーを作って、それを広げていく発信していくというのが上手い面があります。
日本は若干下手。情報発信も含めて下手だとも言われるわけですが、それは今回の 福島第一原発の処理水の放出についても同じかもしれません。
あるいは、捕鯨などでもそうなのかもしれません。
科学的に正しいということをどれだけ言ってもなかなか理解されなかったり、特に中国が独裁国家で言論の自由もないですからしょうがないところもあるんですが、やはり日本をもっと情報戦においてどう戦うかというのは考えていかなきゃいけないかもしれません。
やはり道義的にどれだけ自分が正しい立場にあるのか、ということを発信する力です。
それは日本にとっても必要なのかもしれません。
また、この道義的な正しさを軽んじるという問題については、ウクライナ戦争でよくある議論です。
これはよく言われますけども、「ロシアも悪いけれどもNATOも欧米も悪いんだ」というロジックです。
このロジックに潜むような危うさもある種、重なってくるんじゃないかと思います。
現代における価値観というのは、ロシアの侵略というのは許されないものであって、ゼレンスキー大統領は「自らの道義的正当性がある」というふうにあれだけ発信するから世界からかなりの支持を得ることができてるわけです。
なのでそれが世界各国の支持、もちろん欧米が多いですけれども、ウクライナへの支持につながっている。
少なくともウクライナを表立って批判するような国はほとんどないです。
少ない極めて少ないです。
つまり、私たちはその時その時で大事にしている価値観というのは、重視しないといけない、訴えていかないといけない。
国家としてみれば、その価値を主張していくことが大事。
「道義的に正しい」という価値を主張することが重要になってくるわけです。
これは現実政治においてそうだという意味です。
最も差もなければ虚無主義的になってしまいますし、世界はカオスに陥りかねないわけです。
「侵略できる国が侵略するんだ。どっちも悪いんだ。みんな悪いんだ。」というような主張ですと、やはりカオスに陥っていくリスクもあるということです。
結局はすべての国家が国益を追求するだけの非常に殺伐とした国になって、弱い国は虐げられてしょうがないようなロジックになってしまう。
それは19世紀的な価値観に戻ってしまうわけです。
これは到底、現代においては受け入れられない価値観でもあるわけです。」

道義的に正しいことの情報発信が下手な日本だと言っています。
それは、たしかにそうなのかもしれません。
しかし、敗戦後の日本はGHQが去った後もアメリカの属国を選択し続け、国防を考えずにひたすら経済重視、金儲け重視の発展をしてきたことと関係があるのではないか。
つまり、日本の政治家は日本国民に対して真実を告げず、日米安保という名目だけの同盟を結び、先延ばしの政治をやってきた。

いつかはバレる話。
時の政権はそんなことをお構いなしに政治をし、後を引き継いだ政権も同じく国民をだまし続ける。
本当のことを政府自らが発信する前に、米国の公文書が徐々に機密解除されバレていく。
公開されているにもかかわらず説明もしない。メディアも言わない。

嘘は結局、つじつまが合わなくなります。
言い訳に言い訳を重ね、深みにはまっていく。
過去の清算をしないものだから、ロシアウクライナ戦争でも真実を見られなくなっています。

豊島氏は、ロシアウクライナ戦争の道義的正しさはウクライナにあるというような説明をし、ロシアの侵略が悪いのであって、ケンカ両成敗的なロジックは危うく、世界の大半はウクライナを批難する国はほとんどないとまで言っています。

アメリカが仕掛け続けたロシアへの挑発は完全無視のメディアたち。
なぜロシアは孤立しないのか。
BRICS勢力は拡大一途です。
ハンガリーは当初からウクライナを批難していたし、ウクライナを批難している国はメディアが報じていないだけで今や少数ではないでしょう。

果たして、このような西側のプロパガンダを鵜呑みにした解説をしていること自体が「道義的に正しい」ことを解説する資格があるのか、メディアは重要な事実を報じず、西側に都合の良い情報だけを国民に垂れ流しておきながら道徳を説こうとする姿勢こそ、カオスな世界に向かっていると思います。


個人的感想


西欧に蹂躙され続けた時代から解放され、インド民族として誇りを持ち、再び侵略されない外交をしようとしています。
外相は、インドの国益を最重要とした政治を考えています。
当たり前ですが。
そして、日本人を好意的に捉えており、さらには日本人の価値観や民族としてもリスペクトしています。

日本に対しては、暗にアメリカの支配から脱却して、自らの力でアジア諸国と向き合った外交をせよと激励までしてくれています。
そして、インドと日本が協調してバランス外交でもって多極化する世界を歩もうとしているのではないか。

因みに、アメリカの中東での影響力が下がり、核保有国を目指すイランですが、日本がアメリカの言いなりであることの裏には、敗戦国という名の下に強いられていることを見透かしたコメントを発しています。

つまり、多くのグローバルサウス諸国は東南アジアも含めて、日本を敵視している国はほとんどなく、むしろこの期にアメリカの支配下から脱却し、大国としての責任を果たせと言っているのではないか。

先進国で唯一、治安が良い国は日本だけです。
その日本を築いているのは日本人の気質。

アメリカに変わって、覇権国としてではなくアジアの秩序をもたらすバランサーとしての国家になるのは日本のような気がします。


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