秋の雲
うろこ雲が空に広がっていた。
「ねぇ、ほら、うろこ雲」と、一緒に歩いていたあなたに話しかけながら、雲を指さした。
あなたは空を見上げて、少し首を傾げる。
「これって、ひつじ雲じゃないの?」
「え、ひつじ雲? そうなの?」
秋の空に広がるもわもわの雲は全部うろこ雲だと思っていた。
「うろこ雲だったらもうちょっと小さいんじゃないかなぁ」
「そうなんだぁ。ひつじ雲なんだね」
あなたが右手の人差し指を立てて、雲に向ける。
「こうやってさ、人差し指のなかに雲が入りきらないなら、これってひつじ雲なんだよ」
知らなかった。私も真似をして人差し指と雲を比べてみた。
「ほんとだ! 指から出てるね」
魚のうろこは小さくて、ひつじの体は大きくて、そっか、そうなんだね。
うろこ雲とひつじ雲の見分け方をあなたから教わった秋の夕暮れ。
風が少し冷たくて、人差し指がひんやりとした。
秋が来るたびにあなたを思い出す。
空を見上げて、ときどき人差し指を立てて、雲がどっちか確認する。
「何してるの?」
幼子に声をかけられた。
私は幼子の目線まで体を下げて、あなたに教わった見分け方を伝授した。
最後にその人差し指を幼子の口元に近づけて「誰にも内緒だよ」って言ったら、幼子の目がキラキラと光った。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨