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遠いところまで

雪が降っている夢を見た。誰かの足元に吹雪のように降りかかる雪が見えた。黒いズボンの膝下あたりを白い粉雪が流れていく。その足は白い景色の中をこちらに向かって近づいてくる。雪の流れに逆らうようにゆっくりとやってくる。

誰の足だったんだろう。男性の足のようだった。記憶の中にその足をたぐれないから知らない人の足だったのかもしれない。自分の足を心に浮かべた。夢のそれとは違って細く白く頼りない。

いま何時だろう。外から鳥のさえずりがかすかに聞こえる。5時過ぎだろうか。

そんなことを思いながら手を伸ばして、足の先にそっと触れてみたらすごく冷たかった。体は寒くないのに足だけが冷たい。体の遠いところが冷たい。

ベッドの中で体を起こして、冷たい足の先を優しく撫でる。大丈夫、手のぬくもりであたためてあげるから。ゆっくり撫でてときどきキュッと包み込む。じんわりとあたたかさを足に感じる。代わりに手に冷たさが伝わっていく。そのままにしていると温度が溶け合って次第に同じくらいになった。

規則正しく小さく聞こえていたあなたの吐息が乱れた。あなたが目を覚ました。あなたも起き上がって私を背中から抱きしめてくれた。

耳元で「何してるの?」って囁きながら私の手の先を覗き込む。「足、冷たいの?」って言ってそっと私の足の指にあなたが触れた。私よりももっとあたたかい手で私の足の先をあなたが撫でる。何度もゆっくりと。すごくあたたかいな。包み込まれている体もあたたかい。素肌から直接感じるあなたの熱が心も一緒にあたためてくれる。

私は振り返ってあなたにキスをした。

優しくてあまいの。

シーツの上で震えるあなたのスマホをそっとサイドテーブルに置いた。

ねぇ、私だけを見て。

私の遠いところまであたためてね。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨