震災クロニクル【2012/6/1~】(60)

本格的な梅雨だったと思う。じめじめした毎日が洗濯物泣かせ。今日も仕事に向かう。曇天の空からじわっと涙雨。

今日はAKBのなんとかって奴らが慰問に来るらしい。正直どうでもいい。復興に協力してますよアピールは自分にとっては本当にどうでもいいのだ。有名人が来て、被災者と触れあうのは元気付ける意味で大切かもしれない。でも、僕らにはもっと違う何かを求めている。

隠されているものは何なのか。
これから何を備えなければならないのか。
教えられていないこと。伝えられないこと。
山のように積み上げられた復興と反省はまだまだ高く積み上げるであろう。

全国各地から支援物資が届き、銭湯には所謂「伊達直人」が頻繁に現れ300人分の入浴料を寄付していく。そのお陰で自分はたまに無料で、銭湯に入れる。人の暖かさに涙しながら、復興の道のりは果てしなく遠い。

賠償金の話は相変わらず何処でも聞かれた。何かが違う。震災前と比べて、隠すことが美徳であったものが表にでてきたような感じ。

なまめかしい「お金のはなし」があちこちで展開される。近くのショッピングモールの一角を借りて、東京電力は【賠償相談センター】を開いた。たくさんの人が訪れ無機質なホワイトカラーの男数人が扉の前で仏頂面をしている。

そのテナントの隣では再開の見込みのない100均ショップがシャッターを閉めたまま佇んでいる。

どのくらいの店が再開したのだろう。60%くらいだろうか。相変わらず閉店のままの店もかなりある。いや、もう閉めているのだろう。

福島から避難している人は帰ってきているのだろうか?いや、転出しているのだろうか?その辺のこともよく分からない。相変わらず復興景気なのだろうが飲食店は作業員で溢れかえっている。

新規の飲食店が駅前にたくさんオープンした。そういえば飲み屋も増えた。作業員目当てなのだろう。パチンコ屋以外にも作業員を狙ったビジネスは多種にわたる。そのうち風俗店もできるだろう。

はぁ。風船のように膨らんだ景気はそのうち割れる。でも、原発事故の終息まで膨らんだ風船は揺れ続けるだろう。様々な問題に吹かれながら。

汚染水のタンクはまだまだこれからも作られる。タンクだらけになる大熊町は目に見えて絶望の真っ只中だ。そんな生々しい光景を近くに見据えながら、ここは空前の好景気。週末夜の騒ぎもちょっとした都会のようだ。

サインをした同意書に少し後悔しながらも、この街の暗い未来を考えずにはいられない。

そういえば今年は野馬追は開催するらしい。観光客目当てだろうが、復興アピールも兼ねている。

無理しなくてもいいのに……

6月の雨の中、背伸びしたこの街に同情しながらも、優しく「無理するな」と語りかけたくなるような気分だった。

震災後2度目の夏はもうそこまで来ている。僕はまだこの街に立ち尽くしたまま。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》