見出し画像

読書感想【跡を消す:特殊清掃専門会社デッドモーニング】


【生きることの意味を真摯なまなざしで描き出す感動作!】

 上記は帯文から。
 第7回ポプラ社小説新人賞受賞作ということで普段はそういった「賞」を受賞したから読む、といったことはしないのだけれど、物語を書くようになってから初めてそういう目で作品を読んでみた。

 孤立死や自殺などのわけありの亡くなり方をした人たちの部屋を片付ける特殊清掃専門の会社の手伝いを始めた主人公が、実際に死の跡の現場に立ち会いながら、「死」とは何か?について考えていく物語。
 部屋の描写がリアル?というか細かいと思った。もちろんそういった部屋に入ったことは無いのでリアルかどうかはわからないのだけれど、読み手として現場や情景を想像させるには十分な描写量で、他の読者の方々の感想にもあったように、臭いを感じるように息を止めながら読み進めてしまった。重いテーマを扱いながら、そこまで暗いトーンではなく物語は進んでいくため、読み進めにくいということは無かった。少ない登場人物でテンポよく物語が進んでいく。

 物語の本質であり主題の「死」という概念。一体それは何なのか?ということを故人が過ごした現場で想いを馳せる。
 「死」を重ねた回数で自分の人生経験の深さを語りたくはないが、幸運にもそう言った経験はまだ同年代の人間と比べると比較的少ないと思う。その中でも、やはり「死」とは何か?ということについての答えなんてわかるはずがない。否定的に考えているわけでは無く、果たして考えて正解が出るものなのか?という根底の疑問は忘れないようにしたい。何も死に限ったことではない。生きる意味とか、神様とか、宗教とか、人生とか、恐らく、それぞれに答えがあるものであるため、「死」とはこういうものだ、というような固まった考えを持つような愚かな真似だけはしたくないと思った。

 やや読んでいて気になったのは、主人公の性格が軽い?というか相手の感情を読み取ることができない、冷静に周りを見ることができないのかな?と思わせるのに対し、この仕事を丁寧にやっているのがなんだか意外に思った。だからこそ現場で依頼主とトラブルを起こすのかも知れないと思ったけど。
 それと、「笹川」さんに対して呼びかける時は「さん」付けなのに、思っている時は呼び捨てであること。今どきの若い人ってこうなのか!?と思ってしまった。 

 なんにせよ、自分がよっぽどのことが無ければ関わることが無いような新しい世界を知ることができた。「死」とは何か?について個人的に考えるために安楽死関連の本を読み漁って来たけれど、そう言った観点とは違うところからの考えるきっかけになる物語。面白かったです。


著者 前川ほまれ
発行 平成30年7月

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?