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丸山俊一+NHK取材班著(2019)『AI以後 変貌するテクノロジーの機器と希望』NHK出版

AI時代を哲学的に検討するためのファーストステップ

職場の昼休憩の間に少しづつ読み進めていたものです。個人的にはAI倫理に興味を抱き、AI倫理関連の本を読み進めていますが、その分野に関連する裾野のところも知識として持っていたくて、やや軽めの本なのでKindle Unlimitedを利用して読んでみました。

「AI以後」というタイトルにも惹かれたが、本に登場する数学的思考からAIにアプローチする論者、ロボット時代の倫理から考察する倫理学者、コンピュータと哲学に関する神経科学者、シリコンバレーの先導者といわれる著述家など、なかなかユニークな人たちに接近して書かれた内容である。当然ながらNHKの番組の副産物的な本なのだけど、わたしはその放送番組を見ていないので、むしろ本から受ける視座の方が新鮮に感じたのは言うまでもない。

本書でも最初に触れているように、現在のところAIを好意的にみる「AI万能論」と、AIを否定的にみる「AI敵対論」が根強く相反する論陣を張っているように見えるが、本書は単に二元論を論じるのではなく、AIの可能性という視点を提示しており、その点で十分に考察すべき内容に焦点があたる仕掛けを持っている。

「変化は、気がついたときには、既に遅い」、確かに変化に気づいたときには既に物事のフレームワークは固まっており、先行者利益は確保された後であり、初期に必要とされる技術は先行者の手の内で既に第二の展開に向けて着々と準備が出来上がってしまっている…

さて、わたしが着目するのは、倫理や哲学的な内容ですが、ロボットと倫理に関する内容で、限定合理性にちなんで限定的な道徳環境や機械道徳などの道徳的価値観の問題に触れているところや徳倫理、AIを不完全な鏡と称しての解説などには興味をそそられた。

AIの意識や自己認識など、これから訪れるかも知れない未来を考える上では、大変興味のある話題が盛り込まれており、その見解は参考となった次第である。

人間とAIの決定的な違いを、意識、感情、計画と想像と記載されているが、現状の情報処理だけの状態から「考える」というところまで技術が行き着いたときには、これらの決定的な違いは解消されるのかも知れないなどと、発想しながら読んでいくと、今後色々な解釈が出てきそうに感じ、この分野はますます混沌とするのではないかとも思われる。

技術も生物のように自己強化していくという論も展開され、なかなかに面白い内容だった。つまりは、未だ人類がAIに対してその未来を十分にイメージ出来ていなくて、専門家すらも想像の域でものを言っているに過ぎないことも、逆に理解できてしまう不思議な本でもある。

まあAIを考えるには、色々な視点や視座からものを見ることは重要であり、そのような視点や視座を与えてくれる点では、有用な本だった。

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