心づかいのお菓子たち
予想以上の積雪、配送遅延、残荷、在庫数差異と、バレンタインの出荷ピークはトラブルがてんこもりだ。
とくに週末とトラブルは、ただならぬ関係。
在庫数の差異が解決し一安心して、きっと今は自由に意識飛べるはずと思った午後三時。
背後から「買えたの…!」と小さな声をかけられ、これをそっと机に置かれた。
もはや鎌倉みやげの定番になった《鎌倉紅谷》のクルミッ子と、横浜発のチョコレート専門店《VANILLA BEANS》のチョコサンドクッキーがコラボした商品。
数年前からバレンタインの時期限定で販売していて、購入個数制限が設けられるほど、入手困難な品である。
両社が、横浜ハンマーヘッドの同じフロアに店を構えたことから交流が始まったのだとか。
先輩いわく、関東で大雪が降った日に、仕事で立ち寄ったある百貨店の催事場ですんなり買えたのだという。
クルミッ子は、キャラメルにこれでもかというくらいクルミをぎっしり詰め込み、バター生地でサンドしたサクサクとろりカリカリのピアノの鍵盤サイズのお菓子。
そのキャラメル部分を、ショーコラのチョコレートで包んだようだ。
正方形で、サンド部分が分厚い商品の見た目はショーコラ寄り。
分厚いベージュにかじりついたら、中からクルミがぎっしり詰まったキャラメルペーストが現れた。
くにゃりとした華やかなキャラメルの風味に、目が覚める。
クルミッ子のクルミッ子たる部分を包み込むのはやわらかな甘みのホワイトチョコレートなので、クルミッ子特有の風味を損ねていない。
ご相伴にあずかれたことに感謝しているし、君と出会った奇跡が胸にあふれたから、雪は許してやろう。
もう出荷も終わった頃だし、土曜だし、そろそろ帰ろうかな…と思った午後六時。
「ごめん〇〇運輸が残荷した…宅急便間に合うか確認するわ…」と心底申し訳なさそうな声で物流から電話がかかってきた。
配送業者から急に集荷時間の繰り上げを告げられ、大至急荷揃えしたが間に合わなかったのだという。
荷物が出終わるまでは帰れないが、わたしのやる気は一足先に出ていっている。
いったん離席して、バレンタイン配布用に個人的に取り寄せていた荷物を開梱しに行った。
取り寄せしはじめてもう10年は経つ、淡路島の《長手長栄堂》のあわじオレンジスティック。
これを超えるオレンジピールを、わたしは知らない。
段ボールを開けたら、まずこれが出てきた。
「ありがとうございます」と丁寧な手描きのメモつきで、ステキな心づかいが瀬戸内海を越えてやってきた。
おもわず「ワァ~」と声が出る。
相当な柑橘好きと思われているのだろう。
大当たりだし、むしろこちらがありがとうございます。
見るからにしっとりふかふかそうな鳴門オレンジのマドレーヌ。食べる前からすでに大好物。
オレンジのイラストが素朴でかわいらしい。
長手長栄堂さんはオレンジピールのほかに、瀬戸内ならではのレモンピールや、兵庫県の特産品のひとつ、いちじくチョコも製造している。
いつもオレンジといちじくしか買わないから、レモンもよろしくね!というメッセージだろうか。
まず、日持ちの短いマドレーヌからいただく。
鼻を近づけると、バターのみが甘く香る。
オレンジの香りはしない。
ところが、かじりついたらオレンジの酸味と香りがパッとはじけた。
目にはほとんど見えないのに、しっかりオレンジがいる。なるとオレンジの存在感、ハンパない。
生地もしっとりふかふかで口溶けがよい。これはオンラインショップで購入できないのが口惜しい。
つぎはレモンピール。
オレンジと同じで、厚切りピールのぽってりフォルム。
レモンのたまらなく爽やかな香り、そしてきゅうっとした酸味とほろ苦さがはじける。
それを、ミルクチョコレートがやわらかく回収して、鼻の奥にレモンの爽やかな香りだけを残していく。
発売初年度に食べたときは、少し固めで、皮感が残るな~と感じていたが、ひさびさに頂いたらしっかりやわらかかった。
気づかいの分だけ、さらにやわらかく感じたのかもしれない。
ありがとうございます、と西に向かって手を合わせる。
てんこもりのトラブルのあとは、甘い心遣いがてんこもりだった。
トラブルと心遣いも、実はのっぴきならない関係かもしれない。
残荷した荷物は、一時間後に電話がかかってきて、無事宅急便で出してもらえた。
これで、最繁忙期は乗り切ったはず。
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