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ほおずきの味を知った

10ヶ月ぶりに、美容院へ行った。
黒髪なのをいいことに、無頓着が過ぎる。

のびた分だけばっさり切ってください、と告げたら、こう尋ねられた。

「ショッカクどうします?」

ショッカク…?

美容師さんが、わたしの前髪の両サイドを指で滑らせている。なるほど。

触覚ヘアとは、前髪の横、もみあげより少し前部分の髪を伸ばし、顔に沿うように垂らした髪型です。

https://beauty.hotpepper.jp/magazine/219065/

知らぬ間に、その毛にそんな呼称が。

インセクトワールドに迷い込んでしまったかと思った。

10ヶ月の間、前髪は自分で切っていた。
意図せずサイドが伸びて、わたしにもショッカクとやらが生えていたのである。

触「覚」表記が主流なのは、触「角」だとあまりにも虫すぎるからだろうか。

それとも「角」が「ツノ」を連想させるからか。

シャンプーされながらいろいろ考え、そうだ、「角」館のクッキー缶が賞味期限間近だ、帰ったら開けよう、という結論に流れ着く。

iPadminiくらいのサイズ

秋田県の角館に本店を置く菓子店「くら吉」のフルーツクッキー缶。

2005年創業の、比較的新しい菓子店である。

都内には常設店があるものの、なかなか足がのびず、入手できずにいた。

事前情報なしに立ち寄った横浜のバレンタイン催事で、ばったり出会う。

フルーツクッキー、というワードにも惹かれるし、なにより狛犬のようにおすわりする秋田犬がかわいい。

角館といえば桜も

大事にとっておきすぎて、賞味期限がギリギリになっていた。

クッキー缶は開けると湿気てしまうので、食べるタイミングがむずかしい。

あきたいぬ型クッキーも!

購入時、店員さんから「崩れやすいのでなるべく平行にお持ち帰りください」と言われた理由がわかった。

仕切りが入っていない。

マンガ雑誌の表紙のように、登場人物がぎっしり詰め込まれている感が、近年のクッキー缶の魅力である。

店員さんの言いつけをしっかり守ったから、ほぼ崩さずに持ち帰りできた。

焼き色のグラデーションの中に、ルビーのような深みのある赤と、トパーズのような活き活きした黄色が映える。

温かみのある、あざやかさ。

裏面表示をみたら、着色料をまったく使っていなかった。それでこの彩りは驚く。

真ん中におすわりする秋田犬

秋田犬は大型犬のはずだが、クッキーにうもれてこじんまりしている。

しかくいルビー色は、秋田県産フランボワーズを使ったココアクッキー。

しかくいトパーズ色は、ポンカンとネーブルオレンジの自然交配種、たんかんを使ったクッキー。

どちらも、口に含んだ瞬間に果実のはなやかな酸味が広がり、バターや小麦の甘みと混ざり合う。

ジャムの乗った丸いクッキーは、おなじくフランボワーズとたんかん…と思いきや、黄色いほうはなんと「ほおずき」のジャムだという。

ほおずき、観賞用のイメージしかない。

シャインマスカットのガレットや黒糖クッキーも

マーブル模様の丸いクッキーと、白いメレンゲクッキーにもほおずきが使われている。

コアニスイーツホオズキという、食用のほおずきだそうだ。一般的なほおずきは、毒性があり食べられない。

コアニ、とカタカナで書くと南国感があふれるが、秋田県上小阿仁村、のコアニらしい。

食用ほおずきは、秋田県の名産品なのだという。
あざやかなオレンジ色の観賞用ほおずきに対し、白っぽくて柔らかな雰囲気。

ほおずきを味わうのは初めてだ。

その色と形から、金柑のような味なのかな、と想像しながら口に運ぶ。

柑橘系とはおもむきが異なる、青くて奥深い酸味があった。

オレンジのようにパッと広がる華やかな酸味ではなく、噛めば噛むほどに、じんわりと酸味が強くなっていく感じ。

うまみのようなものもあり、ドライトマトに近い気がした。クセになる。

それもそのはず、ほおずきはトマトと同じナス科だった。

秋田犬に導かれて買ったクッキー缶で、思いがけず初めての味を知った。

くら吉では、クリームサンドなど、ほかにもほおずきを使ったお菓子を扱っているという。

ところで、昆虫たちの触角は、触覚や嗅覚の役目をはたし、食べものを探して外敵を防ぐはたらきをしている。

チョコのあふれる催事場で、あのクッキー缶を探し当てたとき、わたしのショッカクも働いていたのかもしれない。

というより、覚かもしれない。

髪の毛は10㎝切ったが、とりあえず前髪の両サイドはのばしておくことにした。

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