見出し画像

★代謝の基本と異化(高校理科生物)


★代謝の基本

生物とは何か?

この答えの1つは次のようなものだ。
「生物とは化学物質である」

ならば、生命活動とは何か?

当然、上記のように考えれば、この答えは化学反応になるはずだ。

体内で起こる化学反応代謝)は生化学、分子生物学の基礎である。
だが、代謝は非常に複雑である。

なのでここでは問題を分割する(困難は分割せよ)。
つまり、代謝を大きく二つの反応に分ける。

異化(イメージは分解反応)と同化(イメージは合成反応)である。
さらにそれらの代表的な反応として呼吸光合成を取り上げる。

・ 代謝の種類

異化は分解反応であり、エネルギーの放出を伴う。
: 発熱(発エルゴン反応と呼ばれる)。
これは同化の材料やそのエネルギー源であるATPを作る反応と言える。

同化は合成反応であり、エネルギーの吸収を伴う
: 吸熱(吸エルゴン反応と呼ばれる)。
これは 様々な物質やATPを利用して必要なものを作る反応と言える。

● エネルギーとは?

異化や同化といった化学反応は反応に伴うエネルギーで定義されている。

だが、そもそも化学反応に伴うエネルギーとは何だろうか。
すなわち物質が持つエネルギーの変化とは何だろうか。

エネルギーとは仕事をする能力のことである。
では物質のエネルギーとは具体的に何なのだろうか。

・ そもそも化学反応とは?

物質AとBが反応して1つの物質Cが生じる場合、結合が変化している。
化学反応とは化学結合の変化なのである

・ では、化学結合とは?

化学結合とは何だろうか。

共有結合の場合、電子対の共有として理解される。
つまり、化学反応において、物質の電子の状態が変化している。

だとすれば、「化学反応に伴うエネルギーの変化」というのは何か?
これは「電子の再配置に伴うエネルギー変化」と言えるはずである。

・ つまり、物質のエネルギーとは?

物質はその電子配置に応じた、電子の状態に応じたエネルギーをもつ。これが変化するときエネルギー的にも変化する。
余分なエネルギーは熱などとして放出し、不足分は外部から吸収する。

要するに、物質のエネルギーは電子の状態に依存している。
(高校生物で化学反応を考えるときにはこれで十分)

・ 電子の状態の変化とそれに伴うエネルギー

・ 電子の状態の変化とそれに伴うエネルギーの状態の変化とは?

化学反応の前後で電子の状態が変化し、エネルギーの放出や吸収が起きる。だが、その途中はどうなっているのだろうか。

実は反応の途中に遷移状態という高エネルギー状態が存在している。
そして、これに必要なエネルギーが反応の起こりやすさと関係している。

それゆえこの遷移状態に必要なエネルギー活性化エネルギーと呼ぶ。

これが小さい時に反応は起こりやすく、大きい時には反応が起こりにくい。
酵素などの触媒は、これを小さくする作用がある。

★代謝

有機物から効率的にエネルギーを取り出すにはどうすればよいだろうか。
逆に有機物を効率よく合成するためにはどうすればよいだろうか。

物質のエネルギーがその電子配置(電子の状態)に依存することを考えれば、電子の状態を直接変化させる反応こそ、この問題にふさわしい。

つまり、電子の移動を伴う化学反応、酸化還元が代謝の中心に来る
特に、有機物ではC‐Hの結合が多く、水素の転移を伴う場合が多い。

●呼吸

酸素を利用して体内(細胞)に取り込んだ有機物(炭水化物脂質タンパク質など呼吸基質と呼ばれる。)からエネルギーを取り出す過程。

つまり、呼吸基質を用いてATPを作り出す反応である。

グルコースが呼吸基質の場合は、呼吸は大きく3つの反応から成る

これは段階的に有機物を分解することで、熱としてエネルギーが無駄になるのを防ぎ、また生じる熱で細胞が傷つくのを防いでいる。
   
解糖系
細胞に取り込まれたグルコースをピルビン酸にする一連の反応。
細胞質基質で行われ、ATPが生じる。ほぼすべての生物が行える。

クエン酸回路
ピルビン酸をクエン酸にした後に分解していく一連の反応。CO2が生じる。
ミトコンドリアのマトリックスで行われる。
ATPの他、還元型の補酵素、NADHFADH2が生じる。
主に有機物のエネルギーを補酵素に移す反応

電子伝達系
クエン酸回路で生じた還元型の補酵素を酸化し、ATPを生み出す反応。
ミトコンドリアの内膜で行われ、酸素が還元されてが生じる。
さらに酸化的リン酸化により大量のATPを合成する。

・ 酸化と還元

酸化されるとエネルギー放出、還元されるとエネルギーの吸収が起こる。
酸化と還元は同時に起こる

酸化を引き起こす物質が酸化剤(自身は還元される)
還元を引き起こす物質が還元剤(自身は酸化される)

・ 消化と代謝

ジャガイモにはデンプンという多糖が含まれている。
これを食べるとだ液や膵液等の消化酵素(ハサミみたいなもの)が糖の間の結合(グリコシド結合)を切る。そして、単糖が生じ小腸で吸収される。
多糖等の高分子化合物は栄養分として血液に取り込みにくいためである。

● 呼吸の反応をより詳しくみると

① 解糖系(投資と回収)

糖を反応しやすくする
化学反応を起こすために物質を熱することがある。
活性化エネルギーを超える手助けとしてエネルギーを与えているのだ。

解糖系でもATPを使ってグルコースにリン酸を付加する。
こうすることで活性化エネルギーを超えやすくする。

異化に伴うエネルギーで、NAD+やADPを、NADHやATPに変化させる
有機物の異化に伴いNAD+やADPにエネルギーが移される。
そして、NADHやATPが生じる(同化の材料やエネルギー源を作り出す反応が異化だから)。

ATPの合成では、まず、有機物の異化に伴って高いエネルギーを持つリン酸化合物が生じ、これがADPにリン酸を転移させるという反応を行う。これを基質レベルのリン酸化と呼ぶ。また、筋肉ではクレアチンリン酸が転移反応の材料となり、これを行う。

②, ③ クエン酸回路(還元型補酵素の生成)と電子伝達系

効率の良いATP合成: 酸化的リン酸化

解糖系で生じたピルビン酸(炭素数3なのでC3と表記)は未だ使えるエネルギーを含んでいる。そこで真核生物はこれを更に異化する方法を生み出した。
クエン酸回路である。

この過程は、少量のATPも作るが、その目的は補酵素であるNAD+やFADを有機物の酸化に伴って還元することである

つまり、補酵素にエネルギーを移し替える。
そして、ATPの合成は電子伝達系で行う。

おそらく、有機物の異化とATPの合成を同時に行うのは容易ではなく、分業したのだ(呼吸基質には通常リン酸は含まれておらず、基質レベルのリン酸化は容易には起こせない)。 

ATPの合成は、還元型の補酵素がミトコンドリアの内膜に運ばれてきて開始される。そこでは還元型補酵素電子伝達系と呼ばれる一連の反応酸化され水が生じる(この時に酸素が必要)。

さらに、酸化の際に生じるエネルギー水素イオンの濃度差を作るのに利用され、生じた濃度の勾配は水素イオンの流れを生み出し、その作用でATPが生じる。これを酸化的リン酸化と呼ぶ。

・クエン酸回路のイメージは水力発電である。

水力発電: 水の流れで電気を生産。
電子伝達系: 水素イオンの流れでATPを生産)

つまり、還元型補酵素の酸化のエネルギーで水素イオンをくみ上げ、その結果生じる水素イオンの流れでATPを合成する

このようなATP合成反応を酸化的リン酸化と呼ぶ。
その仕組みを化学浸透説と呼ぶ。


この記事が参加している募集

生物がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?