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【連載小説】 星降堂の魔女の弟子

 すっかり年の瀬です。
 皆さまごきげんよう。
 さて、今回は、ある文芸コンテストをパトロールした時に出会った少年のお話です。

(以下、著者のあらすじより)
 僕は空。光星 空。小学五年生。
 実は僕、魔法使いになりたくて、毎日魔法の勉強をしてたんだ。
 今日もむずかしい魔法を試して、でもうまくいかなくて。がっかりした気分を直そうと、コンビニにおかしを買いに行った……はずなんだ。

 コンビニがあったはずの場所。そこにあったのはキラキラの魔法具屋さん。
 そして店員さんは、真っ黒な女の人。見るからに魔女。

 僕は思いきって、弟子にしてくださいってお願いした。
 そしたらさ、どうなったと思う?

✧*・゚ .゚・*.

 なお、紹介させていただくにあたって、作者の許可を得ています。第三話からご案内します。

 作 LeeArgent氏


 魔法のお店がやってきた!③

「ええっと……」

 答えに困った僕を、魔女さんはニヤニヤ笑いながら見てくる。レジカウンターでほお杖をついて、僕が返事するのを待っている。
 やっとのことで、僕は魔女さんに返事をした。

「きれいなお店だから、思わず入っちゃった」

 魔女さんはそれをきいて、声に出して笑った。でも、魔女さんの笑い方は変だった。「くひゅひゅ」って変な声を出しながら引き笑いするの。

「きれい、か。それはうれしいねぇ」

 魔女さんは本当にうれしそうだ。
 でも、こんなお店見つけたら、だれだってそう思うはず。こんなにキラキラしたお店見たことないもん。まるでここは、銀河の中みたいだ。

「銀河の中、か。たしかに、そうかもしれないね」

 魔女さんはそう言った。
 僕はまたもやびっくりした。銀河の中みたいっていう感想は、僕の頭の中で思っただけだ。なのに、魔女さんは「そうかもしれないね」なんて言う。まるで僕の頭の中をのぞいているみたいに。

「カンタンな考えならね、私は読むことができるのさ」

 まただ。魔女さんは、まちがいなく僕の頭の中をのぞいてる。まるで本物の魔女みたいに。
 すごい! 僕は今、本物の魔女とお話してるんだ!

「すごいよ! 魔女さんは、本物の魔女さんなんだね!」

 魔法みたいなお店の中で、魔女さんと出会ったっていう事実で、僕はドキドキしていた。日本にも魔法使いはいたんだ。魔法は本当にあるんだ。って。
 魔女さんはあやしくほほえむだけ。
 それでも僕はかまわずに、魔女さんに一つお願い事をした。

「僕、使いたい魔法があるんだ。会えなくなった人と会う魔法なんだけど」

「ふぅん、魔法を使いたい、ねぇ」

 魔女さんは、僕を頭からつま先までじっくり見る。値踏み、ってやつをしてるんだろうか。
 カウンターから見つめるだけではよく見えなかったみたいで、立ち上がって僕に近付いてくる。すらりと高い魔女さんは、ツンとしたハーブの香りをただよわせて、僕の顔を見下ろした。
 この時気付いたんだけど、魔女さんは右目だけ真っ赤だった。ルビーっていう宝石みたいにすき通ってて、きれいな赤色。なんだかキンチョーしちゃって、僕はゴクリとノドを鳴らした。

「魔法使いになりたいんだ?」

「あ、は、はい……」

 かすれた声で返事すると、魔女さんはようやく僕からはなれた。僕はちょっとだけ安心してホッと息をつく。
 魔女さんはそれがおかしかったみたいで、変な引き笑いをしながらカウンターに向かった。

「ステキな杖を用意しよう」

 魔女さんは、竜の杖をカウンターに立てかけた。雑貨が並んだ棚から箱を取ると手まねきする。僕は手まねきにさそわれて、カウンターに近付いていく。

「初心者の魔法使いでも使える、シラカンバの杖だよ」

 魔女さんが箱を開ける。中には杖が入っていた。真っ白な杖に、黄色い宝石がくっついてる。

「カーバンクルのおでこの宝石を一つ取り付けた杖さ」

「カーバンクル?」

「キツネみたいな小さい幻獣だよ。魔法使いがよく使い魔にしてるんだ。この世界にはいないかもね」

 おお、なんだかワクワクする!

「この、えっと、シラカンバの杖? を使うと、どんな魔法でも使えるようになるの?」

 僕はたずねる。魔女さんは首を振って否定した。

「なんでもってわけじゃない。どんな魔法が使えるようになるかは、君の努力と素質次第さ」

 努力と素質……

「君は、ずいぶんと魔法の勉強をしてるじゃないか。
 ポケットにあるそれは、カラスの風切羽だろう?」

 僕はポケットに手を突っ込んだ。
 無意識に、カラスの羽根をポケットに入れてたみたいだ。僕はクシャクシャになった羽根を取り出して見つめる。

「カラスは、この世界では魔女の使い魔として好まれる。だから、魔法の材料にカラスの羽根がよく使われるんだよ。
 って、勉強熱心な君なら、当然知ってるだろうね」

 本当に、魔女さんはなんでもお見通しだ。
 僕が去年から魔法の勉強をしていることも、魔法についてちょっとだけ詳しいことも。

「魔女さんには、なんでもお見通しなの?」

 僕はたずねる。魔女さんは首を振ってこう答えた。

「そうでもないよ。他人より少し多くの事ができるだけさ」

 多くのことって、なんだろう?

「たとえば、どんなこと?」

「そうだねぇ」

 魔女さんは人差し指をふる。指の先から光が散って、シャラシャラ音を立てながら、お店の中を飛び始めた。僕は目でそれを追いかける。
 光は星の形をしていた。流れ星みたいに天井を回って、シャンデリアにぶつかる。そこから虹色の羽根がついた鏡にぶつかってはね返って、向かい側にあったカンテラを通り抜ける。その時、カンテラの中に入っていた宝石が、ふんわり優しく光り始めた。
 星形の光はお店をもう一周して、僕の胸を通り抜ける。光が通り抜けると、僕の体はポカポカあたたかくなった。
 そうして、僕のまわりを二週回って、最後は魔女さんの指に戻った。

「光星(みつぼし)空(そら)君」

 魔女さんに名前を呼ばれて、僕は背筋をのばした。
 魔女さんは、僕の名前を読み取った。さっきの星の魔法でやったんだ。こんなことができる魔女さんは、すごい魔女にちがいない。
 この魔女さんに魔法を教えてもらったら、僕も魔法使いになれるんじゃないだろうか。
 僕は勇気を振り絞る。
 シラカンバの杖なんて、もうどうでもよくなってた。杖を持ってても、魔法を教えてもらえなきゃ、きっと魔法は使えないままだ。僕には先生が必要だ。魔法が上手な、魔法使いの先生が。

「魔女さん。僕に、魔法を教えてください!」

 僕はしっかり頭を下げた。だれかにものを頼む時には、頭を下げるのが礼儀だって聞いたことがあったから。
 少しだけ待つ。でも、魔女さんからの返事はない。
 僕は、こわごわ頭を上げた。

(第三話了)


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