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いつ気づいたのだろうか?

先日、小学生にDNAの説明をしたところ「最初にDNAを見つけた人は、いつそれが遺伝子の本体だと気づいたのだろうか?」と言っていました。私はDNAを見つけたのではなく、「遺伝子を探していたらDNAが見つかった」のではないかと思っています。たぶん、生物のことが全然わかっていない昔から、親と子供、兄弟が似ていること人間は知っていたわけなので、「遺伝」はすでにわかっていたと思います。今回は教科書で紹介されている、DNAが見つかるまでの過程をお話しします。

一人目:グリフィス

最初の登場人物は、グルフィスです。彼は、肺炎球菌というネズミを肺炎にする細菌を用いてある実験をしました。この肺炎球菌には、体がむき出しになっている”R型菌”体が殻でおおわれている”S型菌”がいます。R型菌は体がむき出しになっているので、ネズミの体内で免疫細胞の攻撃を受けてすぐに死んでしまうので、ネズミを肺炎にすることはありません。しかし、S型菌は殻でおおわれているため、免疫細胞の攻撃に耐えて生き残ります。そのため、ネズミは肺炎になって死んでしまいます。図にあるように、「ネズミにR型菌を注射して生きること」「ネズミにS型菌を注射したら死ぬこと」「ネズミに加熱したS型菌を注射しても生きること」を確かめます(血液中にこれらの菌が残っているかも調べます)。ただ、この3つの実験は、当たり前の結果なのですが、対照実験として必要です。
そこに、「加熱したS型菌をR型菌に加えるとネズミが死亡し、血液中からS型菌が発見された」という4つ目の実験があります。グリフィスはここから、「S型菌の細胞内にある何かがR型菌をS型菌に変えた」と考えました。この話を聞きたての高校生がよく間違えるのですが、決してグリフィスはS型菌を作る遺伝子やDNAを見つけたのではありません。R型菌をS型菌に変える形質転換」を引き起こす物質があるのではないかと考えただけです。

グリフィスの実験を図示しました。

二人目:エイブリー

次の人物のエイブリーは、グリフィスが発見した形質転換の原因物質を探りました。細胞内には原因物質の候補としてタンパク質と核酸の2つが考えられていました。そこで、エイブリーはS型菌を潰した溶液を作製し、そこに「1:無処理」「2:核酸を分解する酵素を入れる」「3:タンパク質を分解する酵素を入れる」を用意しました。まずは、1〜3の処置の意味を考えてみましょう。1は、S型菌のタンパク質も核酸も含まれています。これは、候補以外の物質が形質転換に影響していないことを確かめる対照実験です。2は、タンパク質だけが含まれており、3は核酸だけが含まれています。結果は、2の時に形質転換が起こらなかったことから、核酸が形質転換の原因物質であることがわかりました。
ここまでわかったことは、形質転換すなわち生物の体の特徴を決めるのはDNAであることが示されただけで、親から子にDNAが受け継がれているかはわかっていませんでした。これを明らかにしたのが、ハーシーとチェイスの実験ですが、これはウイルスが増殖する仕組みを知ることができるので、少し丁寧にお話しします。

エイブリーの実験のフローチャートです。

ハーシーとチェイス

この2名が利用したのは、T2ファージと呼ばれる大腸菌を利用して増殖するウイルスです。ウイルスは、以下のリンクの記事でも説明しましたが、生物ではなくDNA(たまにRNA)をタンパク質でつつんだだけの物質です。そこで、ハーシーとチェイスはタンパク質とDNAに印をつけました。(少しだけ詳しく説明すると、タンパク質にはS(硫黄)DNAにはP(リン)が含まれています。反対に、タンパク質にはリンが、DNAには硫黄が含まれません。この硫黄とリンを同位体にすることで、印をつけることができます。)


大腸菌にとりついたT2ファージは、大腸菌の細胞表面にタンパク質の殻を残して、DNAを細胞内に注入します。そして、大腸菌の体内で新たなDNAと殻を作って増殖します。その後、大腸菌を突き破って次の大腸菌に向けて飛び出していきます。ハーシーとチェイスがこの増殖過程を知っていたのかは、私はわかりませんが、遺伝子の本体となっている方が大腸菌の中に入っているはずですよね。そこで、ハーシーとチェイスは感染してすぐの細胞をかき混ぜて、遠心分離機にかけました。これは、かき混ぜることで細胞の表面にあるウイルスの殻が細胞から離れ、遺伝子の本体が細胞内に残ります。また、遠心分離機では重たいものが沈殿し、軽いものが上澄みとなります。ここで、タンパク質とDNAに印をつけていたことを思い出してください。結論を言えば、同位体は特殊な方法で観察すると光るのですが、リンの同位体を含んだウイルスを使った時に、大腸菌のある沈殿が光ったことから、遺伝子の本体がDNAであることがわかりました。

ハーシーとチェイスの実験の図です。

最後の2人

最終的に、遺伝子の本体の「DNAが二重らせん構造である」というワトソンとクリックの論文に行き着きます。ノーベル賞を受賞した素晴らしい研究論文ですが、ワトソンとクリックは多くの人の研究の結果をまとめただけとも言われていました。そのうちの一人が、シャルガフです。彼は、いろんな生物のDNAを抽出して、そこに含まれる物質の割合を調べてみたところ、「AとT, GとCの割合がどの生物でも同じ」(例;A:28%, T:28%, C:22%, G:22%)であることを発見しました。塩基には相補性があることがわかっている私たちからすれば当たり前ですが、何もわかっていなかった当時は大発見でした。また、ウィルキンスとフランクリンはDNA分子にX線を当てて、DNAの形を明らかにしようと試み、数本のヌクレオチド鎖が集まってできていることを明らかにしました。ウィルキンスはワトソンらと一緒にノーベル賞を受賞しています。このように、「遺伝子の本体は二重らせんのDNAである」ということを明らかにするのに多くの研究者が関わっていました。


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