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木村伊兵衛×時間旅行×記憶:リメンブランス@東京都写真美術館3本立て

  写真家の略歴を見るとよく出てくる「木村伊兵衛写真賞受賞」の言葉。しかし、2022年の本城直季の展覧会をきっかけに、写真展も積極的に足を運ぶようになった新参者なので、木村伊兵衛単独の展覧会はこれが初めて。ようやくのチャンス!東京都写真美術館に来る時は、3本まとめた方が、セット券でちょこっとお得になるので、タイミングを図り、企画展3本立てで上から下まで鑑賞してきました。

  今回一番のお目当て「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」は、残念ながら入口のボードしか撮影できず。

展覧会入口のボード「ミラボー橋、パリ、1955年」:他の沖縄や秋田の写真と違って、パリの写真はVOGUEに出てきそうな雰囲気。この街ならではの、そういう雰囲気を撮りたくなったのかな。

没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる
【2024.3.16(土)—5.12(日)】 B1F 展示室
  本展は日本の写真史に大きな足跡を残した写真家・木村伊兵衛(1901-1974)の没後50年展として、その仕事を回顧するものです。1920年代に実用化が始まったばかりの小型カメラに写真表現の可能性をいち早く見出し、それを駆使した文芸諸家のポートレート、あるいは東京下町の日常の場面を素早く切り取るスナップショットで名声を確立しました。

展覧会サイトより引用

  以前、六本木のFUJIFILM SQUAREで「秋田おばこ」を見て、秋田シリーズは気になっていたので、今回見られて嬉しかった。ただ、この「秋田おばこ」が清楚美人写真なだけで、それ以外は良い意味で全く違うイメージ。農村の暮らしの一コマをさっと切り取ったものばかり。特に「田植え」や「お昼寝」は、どきっとするくらい被写体が素のまま。古い日本家屋の障子もビリビリな部屋で家族が全員ごろ寝している写真とか・・・全くカメラを意識していない表情ばかり。

秋田おばこ、大曲、秋田、1953年 © Naoko Kimura 展覧会サイトより引用

  東京下町や沖縄の写真も、時代の空気を伝えていて良かったですが、私は文芸家のポートレートが一番好きです。川合玉堂、上村松園、横山大観、谷崎潤一郎・・・錚々たる人達ばかり。「従来の型にはまった肖像写真ではなく、被写体の一瞬の表情の変化を捉える独自のスタイルを確立」とありましたが、まさにそんな感じ。写真集を買いたくなりましたが、本は際限なく増えるので、ぐっと我慢して、この「ライカの名手」の作品を自分の目と脳だけで堪能させてもらいました。

  3F展示室はコレクション展の「時間旅行」。

入口のボード

TOPコレクション 時間旅行ー千二百箇月の過去とかんずる方角から
【2024.4.4(木)—7.7(日)】 3F 展示室
本展覧会は「時間旅行」をテーマとする東京都写真美術館のコレクション展です。(中略)本展は百年前である1924年を出発点として、「1924年–大正13年」「昭和モダン街」「かつて、ここで」「20世紀の旅」「時空の旅」の5つのセクションに分け、37,000点を超える当館収蔵の写真・映像作品、資料を中心にご紹介します。

展覧会サイトより引用

  ということで、気分は月旅行へ車で行けそうなこの写真から!

大束元 《夜空の構成 数寄屋橋にて》1958年:「Fly me to the moon」の曲を流したい!
田沼武能 《松屋百貨店屋上の新型機スカイクルーザー》1954年:百貨店が一家のハレの日の場所だった頃。この写真、そういえば日本橋高島屋で百貨店の歴史展示していた時にあったような気がする。007でも出てきたという昔の東京名所?だったような。
大束元 《(群衆 上野駅)》1960-1969年:私の昭和の上野駅のイメージはまさにこんな感じ。夜行列車が出る駅ならではの、全国から人が集まる駅。

  そして、多彩な写真家が切り取った渋谷の景色・・・昔も今も、渋谷って写真に撮りたくなる街なのかな。

師岡宏 《渋谷駅前》1936年
桑原甲子雄 《渋谷駅前》 〈夢の町〉より 1939年
田沼武能 《渋谷駅前広場》1948年
森山大道 《交差点(渋谷)》 〈東京〉より 1968-80年
北野謙 《溶游する都市/デモ行進/渋谷/東京》1992年
北野謙 《溶游する都市/渋谷駅/東京》1992年

  最後は「記憶:リメンブランス」から。

入口のボード

記憶:リメンブランス ―現代写真・映像の表現から
【2024.3.1(金)—6.9(日)】 2F 展示室
写真・映像は、人々のどのような「記憶」を捉えようとしてきたのでしょうか。(中略)本展では、『決闘写真論』(1976 年)における篠山紀信の示唆を起点としながら、高齢化社会や人工知能(AI)のテーマに至る日本、ベトナム、フィンランドの注目される7 組8 名のアーティストたちの新作、日本未公開作を含む70 余点を紹介します。
参加作家|篠山紀信、米田知子、グエン・チン・ティ(NGUYỄN Trinh Thi ベトナム)、小田原のどか、村山悟郎〔コンセプト:池上高志(サイエンス)+ 村山悟郎(アート)実装:Alternative Machine + Qosmo, inc.〕、マルヤ・ピリラ(Marja PIRILÄ フィンランド)、 Satoko Sai + Tomoko Kurahara(順不同)

展覧会サイトより引用

  写真そのものが「記憶」の一形態ですが、具体的な「記憶」の「記録」としての写真ではなく、抽象概念である「記憶」を表現しようとした展覧会になっている感じ?意欲的ではありましたが、私としては、ちょっと捻りすぎの感があって、単に綺麗だな、という感じで眺めてしまった。

マリヤ・ビリラ<インナー・ランドスケープス、トゥルク>
マリヤ・ビリラ<インナー・ランドスケープス、トゥルク>
一つ一つの写真に、場所独自の記憶とストーリーが存在している

  3本全体を振り返ると、木村伊兵衛はもちろん大満足なのですが、「時間旅行」が期待以上に良かったかな。古い写真や報道写真が好きだというのもありますが、「LIFE」表紙シリーズと、W・ユージン・スミスの「スペインの村」(撮影不可)からは、写真ならではの力を感じました。
  「スペインの村」は「貧困と信仰に生きる古の村」デレイトレーサを撮影し、LIFEのフォト・エッセイとして掲載されたもの。土地に根付いた人たちの顔をそのまま捉えた写真が、人にこう、何かを強く訴えてくる写真群でした。

LIFE表紙シリーズ。1枚でどの時代がわかるのが凄い!これぞ写真のパワー
「スペインの村」:この掲載誌だけ撮影OKでした。古い閉ざされた村で土地に根ざして生きる人の顔。2ヵ月の取材で撮影した2,500点もの写真から17点を選んで構成されているそうです。

  3本立てでちょっとお腹いっぱい。写真づくしの一日でした。

<余談>「時間旅行」の大束元 《夜空の構成 数寄屋橋にて》を見てから。頭の中で「Fly me to the moon」の曲がぐるぐる回っているので、インスタでリール動画にしてみました。シナトラの曲が流れる、古き良き時代・・・

<余談その2>「Fly me to the moon(私を月に連れてって)」の曲が特に好きになったのは、エヴァを見てからだったのか、竹宮恵子の漫画を読んでからだったのか、それともスペース・カウボーイだったのか・・・でも、どの作品でもこのジャズのスタンダードナンバーが流れるだけでノスタルジックな気持ちになれる。名曲の力!


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