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【全文公開】『30代から奴隷を抜け出そう!』(鈴木進介・著)

2013年5月刊

はじめに

 この本を開いたあなたは、タイトルにある「奴隷」という言葉を見て、一瞬、不快な気持ちと緊張感が入り混じり、複雑な気持ちになったのではないでしょうか?
「奴隷」とは何だ! と不快に思いながらも、もしかして自分のことを言われているのかもしれないと我に返る気持ち。そして、怖いもの見たさに少しページを開いてみた。
 これが、今のあなたの気持ちかもしれません。
 そんなあなたは、複雑な時代に翻弄されて自分らしさを見失い、どこか息苦しい部分を持っているとお察しします。
 そうでなければ、「誰が奴隷だよ……。くだらないタイトルをつけやがって!」。そうバッサリと斬り捨て、堂々とこの本を無視できたはずだからです。
 しかし、気にする必要はまったくありません。経済環境や雇用情勢が刻一刻と厳しくなっているご時世では、皆同じように、どこか息苦しさを持って生きているからです。
 少しでもこの息苦しさから解放される羅針盤となって、読者の方が「自分らしさ」を取り戻すための〝バイブル〟をつくりたい。そう思って、僕はこの本を書き始めました。

 「あなたは世間や他人に振り回されず、本当に自分らしい生き方をしていますか?」
 これが、この本で最後まであなたに問いかけ続けるメッセージです。
 先が見えずに不安だけが津波のように襲ってくる時代を乗り切ろうと、僕たちは精神的な安定を求めています。「キャリアアップ」「ノマドワーカー」「効率化」「英会話」「SNSの活用」「貯金」……。多くの人がやっていることを正しいことと思い込み、同じことをやることで安心感を得ようとします。
 でも、僕には、これらが不安を解消する根本的解決にはなっているようには見えません。なぜなら、それは社会の空気に乗っているだけで、「自分の人生」を生きていないからです。

 あえて言わせてください。
 社会の空気に乗っているだけの人は、「社会の奴隷」です!
 社会の空気は、「世間の常識」として、いつしかあなたに思い込みを発生させます。
 そして、世間の常識を目指すことが良いことであると錯覚を起こし、ついには、あなたの自由と才能まで奪い去ってしまうのです。こうなってしまえば、「あなたらしさ」を骨抜きにされた、奴隷状態に陥ったも同然です。

 実は、こんな偉そうなことを言っている僕もまた、長らく「社会の奴隷」になっていた時期がありました。
 僕の学生時代といえば、ずっと偏差値55で「中の中」。新卒で入った会社も、大企業ではなく、その子会社という決してエリートではないキャリアからの社会人スタートでした。そのため、高学歴で大企業に入った友達に対しては、いつも憧れの気持ちと劣等感でいっぱい。いつしか、「いかに優秀な友達に追いつくか」が自分の人生目標になっていました。
 起業を志したキッカケの一つも、「一発逆転」をしたいという気持ちが無意識のうちにあったかもしれません。受験勉強で負けても、仕事では勝てるようになりたい。そう考えた僕は、優秀な友達の人生を後追いするかのようにマネをし、スキルアップや世間の常識とされていることをできる限り追い求めました。
 しかし、サラリーマン時代や起業当初を含めて、友達に追いつくどころか、完全に「自分らしさ」というものまで見失い、ついには給料さえまともにとれない失意の日々を過ごすことになります。
 そのときの僕は、「どうすれば他人に追いつき、追い越せるのか?」という手段(やり方)ばかりを考えていました。しかし、元々優秀な人間と凡人の僕とでは、頭の出来も能力も違いますので、「やり方」ばかりを追い求めても成果が出ないのは当然のことです。
 そこで、
「どうせ成果が出ないのだったら、セオリーをすべて無視しよう」「他人のことや世間体も意識せずに、100%自分らしくありたい」──。
 そう開き直り、世間や業界で「当たり前」とされていることをことごとく無視することで、「自分らしさ」を徐々に取り戻していったのです。言い換えれば、「やり方」を捨てて、自分らしい「あり方」にこだわることに、意識のスイッチを切り替えたのです。

 これにより、今では、自分らしいペースで仕事ができる自由を得て、 凡人でエリートでも有名でもない僕が、一部上場企業のコンサルティングや若手社員の教育の仕事をたくさんいただけるまでになりました 。
 振り返れば、僕たち30代は、バブル経済を直接社会人として体験したことはありません。物心がついてからは、「受験地獄」や「就職難」など、常に荒波にさらされてきた世代です。景気がいい時代なんて体験したこともありません。
 そのため、常にどこか不安に怯え、皆と同じコトをすることで精神的安定を得ようとするクセがついてしまっています。
 しかし、本来はその前に、「本来自分はどういう生き方をしたいのか?」「何をもって自分の幸せというのか?」といった「人生のあり方」や「自分らしさ」の定義をしっかりと考えることが先決ではないでしょうか?

 この本では、あなたがいったん立ち止まって、「今の自分は社会の奴隷になっていないだろうか?」「そもそも、自分らしさとは何だろうか?」そんな視点で新たな気づきを得ていただくことを目的にしています。

さらに、同じ30代である僕が〝横から目線〟で、「生き方」「働き方」「仕事」「勉強」「人間関係」「お金」という6つの分野 で〝あなたらしさ〟を問いかけ、奴隷から抜け出すためのヒントと具体的な実践法 を提供していきます。
 もちろん、「自分らしさ」というテーマは、30代に限ったことではありませんので、30代以外の方も読める内容 にしています。

ぜひこの本が、あなたが「社会の空気」という奴隷から解放されて、自分らしい生き方を取り戻すキッカケになれば、著者としてこれ以上の喜びはありません。
 それでは、一緒に「もっと自由に、もっと自分らしく」生きるための方法 を考えていきましょう。

C h a p t e r 1
自分らしさを取り戻す生き方

1「できる人」の奴隷から抜け出す

「できる人」ってどんな人?

 あなたは「できる人」ですか? それとも「できない人」ですか?
 こんな質問を突きつけられたとき、あなたならどう答えますか?
 堂々と「できる人」と言うには気恥ずかしい。かといって、「できない人」とも言いたくない。これが本音ではないでしょうか?

 ビジネスパーソンであれば「仕事ができる人」と言われたら、誰でもうれしいものです。誰もがそうありたいとも願っています。
 ましてや男性の場合、「仕事ができる男はカッコいい」と言う女性も世間には多いので、そんな気持ちが加速するのでしょう。向上心が高くマジメな人ほど、堂々と「自分はできる人です」と言えるようにしたいという心理が働きます。
 そんな人のモチベーションを煽るように、「できる人になるためには?」というテーマの言葉が世間では躍っています。
 一度、書店をのぞいてみてください。「できる人の〜」「仕事ができる人の〜の習慣」のような〝できる〟系のタイトルが氾濫していることに気づくはずです。
 そんなタイトルについつい目をひかれ、立ち止まって手にしてしまう──。こうなったら、あなたはもうその瞬間から、この言葉の奴隷になっているのも同然です。

 それにしても、「できる人」という言葉の定義はいったい何でしょうか?
 そもそも、統一的で明確な定義なんてないはずです。
 それなのに、「できる人」などという空虚な人物像を目指す姿は、〝愚の骨頂〟だと思えてきませんか?
 大切なことは、なんとなくカッコいい言葉の響きがある「できる人」という言葉にとらわれず、いかに自分らしい仕事ライフを送れるかどうかです。

「できる人」を目指した人の顛末

僕はクライアント先で多くの20代、30代の男性サラリーマンと接しますが、彼らもまた、その多くが「できる人」という言葉の奴隷です。
 かつて知り合ったあるクライアントのAさんは、国立大学を出た後に家電メーカーに就職。10年が経ち営業職として常に中程度の成績でした。
 このままでは同期にも出世競争で負けてしまうと焦った彼は、なんとか社内の次世代リーダーの選抜組に入れるように、「できる人」を目指したのです。
「できる人の〜」という本を片っ端から読み漁り、同類のタイトルがついたセミナーにも通いました。さらに、TOEICを勉強し始め、ビジネス講座でプレゼン術やリーダーシップ論を学び出しました。もちろん、仕事術がよく紹介される「日経ビジネスアソシエ」や「THE21」は手放せません。
 それから1年後、彼は資格取得や知識武装、仕事術の鎧を身につけていました。ある意味、ノウハウやハウツーに長けた人物に変身していたのです。
 ところが、です。彼は昇格テストでの面談では、「本業で成果が出ていない」からという理由で落第。結果的に同期にも遅れをとってしまいました。
 そうです、ただ漠然と「できる人」っぽいことを目指していても、それが本来成果を出すことに必要かどうかは別問題 です。
 自分の強みが発揮できるかどうか、自分らしいスタイルかといえば、まったくそんなことはなかったのです。
 Aさんの場合は、顧客からのリピート注文をとるのが上手でした。「リピート営業」のプロになるのが彼の本来のあるべき姿であり、まわりから評価される武器でした。よく話を聞いてみると、彼自身が顧客と長くお付き合いをすることが大好きで、常に営業現場で働くことを望んでいました。役職者になることに、いっさい興味がなかったようです。
 せっかく身につけた資格や知識も、彼にとっては本来力を入れなくてもよい分野だったのです。
 にもかかわらず、同期に負けてしまうという焦りと現状に対する不安から、本来の「自分らしさ」を忘れて、「できる人」という漠然とした偶像を妄信してしまったのです。すべてが中途半端になった彼は、自己嫌悪に陥ったのです。

「できる人」を目指さない生き方

 かつての僕もAさんと同じように、まさに「できる人」という言葉の奴隷でした。
 サラリーマンを辞めてからは、ご縁があって経営コンサルタントに転進。まわりにはMBA(経営学修士号) を保持する外資系コンサルタント、元リクルート出身で伝説的な営業マン、ヒット商品を連発するプランナーなど、いわゆる「できる人」と称されるライバルがたくさんいました。当時、駆け出しの頃で「金なし」「ノウハウなし」「コネなし」の僕には、彼らがすごくまぶしく見えたものです。
 そんな彼らに少しでも追いつき追い越すため、彼らが書くような「できる人」系の書籍を読み漁り、セミナーにも毎日のように通いました。しかし、一向に「できる人」にならないばかりか、そもそも彼らと比較されては、凡人の僕が仕事をとることすらできません。
 一定の見識は身につけたつもりだったのですが、実はそんな後追い的な見識やスキルの有無なんて関係なかったのです。
 特にコンサルタントという仕事は、「何を」アドバイスするかよりも「誰が」アドバイスするかで判断されることが多いのです。言い換えれば、いかに世間が言う「できる人」が持つスキルや経歴を持っているかです。
 それに気づかなかった僕は、一生懸命「できる人」の後追いに終始し、あろうことか、役者のように見込み客の前で「できる人」を演じていたのです。
 しかし、足を棒にして数十社訪問して「できる人」風に演じてみても、まったく仕事がとれずに冷や汗の日々。そのうち、自分を偽って営業する自分自身に疲れてしまいました。
「いったい俺は何をやっているのだろうか……。どうせ〝できる人〟を後追いし、演じてみても仕事が取れないのだから、裸になって〝当たって砕けろ〟精神でゼロからやり直そう」
 それからは、思い切って「できる人」という偶像を目指すのをやめたのです。
「相手が求めるものは何か?」「自分の強みや自分らしさとは何か?」 を徹底的に考え直したのです。
 その結果、出た答えは、「難しいことを他人に対してわかりやすく説明できること」でした。この1点だけに磨きをかけてPRを始めた瞬間から、「できる人」とコンペになっても勝利を収めるようになっていきました。
 こうして、「できる人」という言葉の奴隷から解放されたのです。ちなみに、これに気づくまでに僕は3年かかりました。

いつまで他人の人生を生きるのですか?

今は、先行き不安の時代です。自分にどこか自信がなかったりすると、ますますその不安は増幅していきます。
 だから、「できる人」という響きから連想される人物像に自分が変身できれば、不安心から解放される──。
 そんな心理に「できる人」という言葉が入り込んできたのでしょう。
 この言葉は、不安や焦り、嫉妬というビジネスパーソンの負の感情を求めて、その人をまさに洗脳していきます。世間で言う「できる人」という空虚な偶像を目指せば、負の感情は消えていく、と。
 しかし、そもそも「できる人」とは、ずばり「成果を出せる人」 です。
 メディアでクローズアップされるような経歴やノウハウなどの武器を持っていることが「できる人」ではありません。あくまでも結果を出した人だけが「できる人」なのです。
 それならば、「成果を出すためには何をやればいいか」「自分にとっての成果とは何か」を追求すべきです。
 営業なら売上や受注数、リピート顧客の獲得など、開発であればヒット商品の開発、物流であれば納期の短縮など、それぞれで目指すべきポイントがあるはずです。そして一番大切なことですが、自分の強みや自分らしさ、そして何より自分のペースというものがあるでしょう。だから、世間が語るカッコいい「できる人」という偶像になる必要なんて、まったくないのです。
 そんな偶像を目指すくらいなら、成果を出しているもっと身近な先輩や同僚から技を盗むくらいのほうが、よほど成果を出すのに近道です。
 僕たちは理想郷のイメージの世界ではなく、現実社会に生きています。
 世間では「できる人」にならなければ、10年後に仕事がなくなると煽ってきますが、気にする必要はありません。
 それより、「自分の本分は何か?」「そもそも自分らしい働き方とは何か?」など、しっかりと足元を見つめ直したほうが、10年後もちゃんと仕事ができているはずです。
 漠然とした向上心を持って「できる人」を目指したところで、あなたらしい生き方はできません。それは、メディアが演出した他人の人生を生きるだけなのです。
 世間に振り回されずに、「自分らしさ」を取り戻すことを忘れないでいたいものです。

【社外アニキの「奴隷解放宣言】
できる人より自分らしさを目指そう!

2「夢に日付を」の奴隷から抜け出す

夢が苦しくなる装置

 夢に日付を!──。
 これはワタミの創業者で会長である渡邉美樹さんが唱える言葉です。渡邉さんは、飲食店の経営や医療・介護、そして教育事業と文字どおり夢に日付を入れ、詳細に手帳に行動計画をつくり、夢を実現した人物としても有名です。
 なにしろ、小学校5年のときから「将来は会社の社長になる」と公言して、大きな成功を収めたのですから、「夢に日付を」入れる力は大きく、とてもすばらしいものです。
 しかし、これを真に受けてとらわれすぎることには注意が必要です。
 誰もが渡邉さんほどの鉄のような意志を持ったスーパーマンではありません。特に僕たち凡人は、マネばかりしていては、うまくいかないときに打ちひしがれてしまうことになります。
 誰しも夢に日付を入れて公言し、スケジュールどおりに達成したらカッコいいし、その達成感は何ものにも代えがたい爽快感をもたらしてくれます。
 しかし、いつも計画どおりにいかないところが人生の難しいところです。
 ここで問題なのは、せっかく決めた計画だからと、状況が変わったときでもそのスケジュールにとらわれ続けてしまうことです。
 公言してしまった手前、「今さら変更ができない」。
 公言してない場合でも、「自分で決めたスケジュールを修正するなんて自分は敗北者だ」。
 そして、「他人が計画どおりに着々と目標を達成していく姿を横目で見て、嫉妬してしまう」──。

 こんな負の感情が芽生え出したら、あなたはもう立派な「夢に日付を」という言葉の奴隷になっています。
 はっきり言って、夢は途中で変えてもいいし、スケジュールだって何度書き直したっていいのです。一度、決めた夢の日付にこだわり続けてしまう必要などありません。軌道修正することに決して罪悪感を持たないでください。敗北者でもなんでもありません。
 そこまで言い切るには、ある一人の知り合いと、僕の経験があるからです。

日付にこだわって、失うもの

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