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クリスマスには短歌を思い出す

倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使
岡野大嗣

この短歌を初めて知ったとき、あまりの可愛さに思わずふふ、と笑みがこぼれてしまいました。
ケーキを運んだことがある人ならきっと誰もが想像できる光景の、きっと誰も見ていないその足元に注目する着眼点。かかとがちょっと浮いている姿を「わずかに天使」と表現するユーモア。老若男女問わずすべての人が、ケーキを運ぶ時は皆等しく天使になるということを、三十一文字の心地いいリズムに落とし込んだこの歌が私は本当に大好きで、ケーキを買う日やクリスマスには決まって思い出してしまいます。
きっと今日明日、街にはわずかな天使がいっぱい溢れる日になるんだろうな。

短歌といえば、学生のころ教科書等で読んだ『万葉集』をはじめとする珠玉の作品のイメージが殆どだったのですが、いわゆる現代短歌と呼ばれる短歌たちがとても自由でユーモラスで、読めば読むほど面白いのです。

現代短歌で一番有名なのは、俵万智さんの『サラダ記念日』でしょうか。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
俵万智

季語が必須ではなく決まりきまった文法も無い短歌は、基本的に「五七五七七であること」「口語体で作ること」をベースにして作られます。割となんてことないような日常の歌でも、言葉選びの妙で趣のある一首になるところが良い。思わず口に出して読みたくなるような語感の良さを感じたり、映画のワンシーンを切り取ったような歌から広がる壮大な余白を想像してみたりすることも出来る。

私自身はなんとなく大喜利や漫才を観るのと似たような感覚で短歌を楽しんでいるのですが、最初に引用したケーキの短歌を詠まれた岡野大嗣さんの作品がどれも素敵なので、著書を少しご紹介したいと思います。


たやすみなさい

たやすみ、は自分のためのおやすみで「たやすく眠れますように」の意 
もう一軒寄りたい本屋さんがあってちょっと歩くんやけどいいかな

友人とのやりとり、銭湯からの帰り道……そんな日常の一コマを季節ごとに切り取って集めたような、岡野さんの第二歌集。
表紙にある、ゆる〜いイラストが中にも散りばめられていて可愛い。日常の歌がメインなので、岡野さんのきらきらした視点も楽しみつつ「ミスド」「Amazon」などといった共感しかできない単語の出てくる歌も。自分も日々をもう少し丁寧に見つめられたら、と思ってしまう。


玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ

ボス戦の直前にあるセーブ部屋みたいなファミマだけど寄ってく?
木下龍也
老犬を抱えて帰るいつか思い出す重さになると思いながら
岡野大嗣

男子高校生ふたりの七日間をふたりの歌人が短歌で紡いでいくというコンセプトのある物語で、木下龍也さん、岡野大嗣さんの共著作。しかもミステリー。青春や思春期のゆらぎがぎゅっと詰め込まれた二十七首を楽しめます。

カーテンが印刷されたトレーシングペーパーがカバーになっていて、めくるとなんとも生活感のあるベランダが見える、という装丁が好きです。


さいごに

岡野さんの短歌はSNSでなんとなく見かけたのがきっかけなのですが、短歌の本は基本的に一首ごとに完結しているので「ちょっとずつでも、どこからでも読んでいい」ところが気楽でいいなあと思っています。(積読が増えていく一方なので…)新刊『音楽』はまだ手に入れられてないのですが、今から読むのが楽しみ。

来年は短歌も含めもっと色々本を読みたいと思っているので、その余裕がつくれるように頑張りたいです。ジャンル問わず、素敵な本があったらぜひ教えてください。

それでは、メリークリスマス!良いお年を!🎅🎄

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