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赤におぼれる(完)

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※ この小説では流血表現や人が死ぬ場面があります。苦手な方はご注意下さい。 これは殺人鬼であるエイと彼女を取り巻く人々の物語。 2019/04/29 完結
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記事一覧

赤におぼれる ~番外編~

※ こちらの小説には人が死んだり、血が流れたりする表現があります。苦手な方はご注意下さい。
又、こちらは“赤におぼれる”の番外編となっておりますが、本編を読まなくても問題はありませんが、読んでいただけるとより楽しめるかと思います。お時間がありましたら読んでいただけると嬉しいです。
それではどうぞ、ごゆるりとお楽しみ下さいませ。

着信音が聞こえた。何時の間にか机から落ちていたらしいスマホが床で存在

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赤におぼれる ~エンド3:これからも~

「……何でもありません」
エイは首を横に振った。いくら朔乃さんが同類で頼りになるからと言って頼っていい問題ではない。自分でどうにかしなければならないと思ったのだ。
「私、いきますね」
「はい。気を付けて下さいね。殺人鬼はいなくても不審者はいるかもしれませんから」
両手を胸の前で握り締めてエイの身を案じてくれる朔乃さんに罪悪感を覚えつつ、エイは笑みを返した。顔がひきつっていたかもしれないが、朔乃さん

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赤におぼれる ~エンド2:さようなら~

「映画?」
「はい。映画といっても自分達で作ったんですけどね。今月上映するやつに私、出てるんです。折角なので観に来ませんか?」
エイの意思を無視した言葉が口から飛び出していた。知り合いに観られるのは気恥ずかしいのに、自ら誘う日が来るとは思わなかった。
「面白そうですね。絶対観に行きます」
胸の前で両手を握り締めた朔乃さんに日にちと時間を教えてエイは帰途についた。
見知らぬ場所なはずなのに、不思議と

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赤におぼれる ~エンド1:ありがとう~

言葉にしたら心が軽くなった。
このまま近くにいたらカオルを殺してしまうかもしれない。でもカオルから離れて生きていくことなど出来やしない。板挟みな現状を打開するには死ぬしかないと解っていた。それでも口に出したら全てが終わってしまう気がして、怖くて言えなかったのだが、これ以上は限界だった。
「理由を聞いてもいいですか?」
至極まっとうな朔乃さんの疑問にエイは笑みを湛えた。
「大事な人を傷付けるなら死ん

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予告↓
【赤におぼれる】は次回が最終話となります。その最終話ですが、投稿する日を宣言しておきます。
4月29日(月)に投稿します。時間は解りませんが、その日のうちには投稿するのでよろしくお願いします!!

赤におぼれる ~第十話~

※ この小説には流血表現や人が死ぬ描写、残酷な描写が含まれています。苦手な方はご注意下さい。

聞いたところで解決しないのは解っていた。それでも口からこぼれたのは誰かに聞いてほしかったからに他ならない。
「答える義理はない」
若干の間を置いて、レイは表情一つ変えずに呟いた。あまりにもレイらしい返事につい口元が緩んだ。
「うん。知ってた」
「あんたはあるのか?」
「ご想像にお任せします」
否定も肯定

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赤におぼれる ~第九話~

※ この小説にもは流血と人が死ぬ表現があります。苦手な方はご注意下さい。

意識が浮上した。夢から覚めるようにゆっくりと浮かび上がり、最初に目に飛び込んできたのは血に塗れた死体だった。体に空いた穴の数や流れる血の量、足元に広がる血の海の大きさを見ると殺してからそれなりに時間が経っているのが解る。普段ならカオルが迎えに来ていてもおかしくないが、今日はまだだ。珍しいこともあるものだと思ったが、それ以上

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とあるイベントにて

十一月某日。
「どうしよう」
人混みの片隅でカオルは途方にくれた。
事の始まりは今から一週間ほど前のことだった。エイにとあるイベントの話をした瞬間まで遡る。
イベントとは、年に数度、日本各地のハンドメイド作家が集まり、作品を展示したり売ったりしているものだ。カオルは予定があえば参加しており、今回もそのつもりでいた。そんな話を何気なくエイに話したら「何それ面白そう。行きたい」と食いついてきた。人混み

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赤におぼれる ~第八話~

人殺しの理由が解って以来、訳の解らない夢は見なくなった。お陰で夢に悩まされることはなくなったのだが、今度は別の悩みが頭をもたげてきた。
人を赤く染める幻覚が見えるようになったのだ。目の前にいる人の首に視線が吸い寄せられる。切り裂いて、赤く染めて、倒れる人の周りに血の海が出来て、次第に赤の割合が増えていく。
何時もそこまでが一連の映像として再生される。何度、手を伸ばしかけては抑え込みを繰り返したか解

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赤におぼれる ~第七話~

夢から覚めると断片的な映像が頭に残っていた。転がる死体とその周りに広がる赤い海。ただそれだけ。他のものは記憶に残っていなかった。
死体も血の海も嫌というほど見てきており、夢に出てきたものが何時何処で見たものなのかは思い出せそうにない。
諦めて目蓋をあげると断片的な映像は霞がかってしまった。
体を起こそうと手をついて痛みに顔をしかめた。意味を理解するのに数秒かかった。傷が刻まれた左手首を見、嘆息した

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赤におぼれる ~第六話~

※ この小説には流血描写が含まれています。人は死んでいませんが、血は出ていますので苦手な方はご注意下さい。

事情聴取めいたものから数日が経過した。あの日以来、人は殺していない。まさか張り込みはしていないだろうが、室町さんは警察よりもしつこい。用心には用心を重ねておくことにしたのだ。
加えて撮影が始まってすぐに所々脚本が変わった。台詞を覚え直さないといけなくてそれどころではなかった、というのもある

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赤におぼれる ~第五話~

目が覚めると部屋の中は薄暗かった。どれくらい眠っていたのだろう。スマホの電源を入れて時間を確認する。デジタルの数字を認識するより早く、ディスプレイが着信を告げた。タイミングが良いのか悪いのか。スマホを持ち直して応答ボタンを押した。
『やっと繋がった。今まで何してたの?』
鼓膜を震わせたカオルの声は心配と呆れの色がにじんでいた。
「ごめん。寝てた」
『電源切ってまで?』
「睡眠の邪魔されたくなかった

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赤におぼれる ~第四話~

夢を見ていた気がする。断言できないのは目が覚めた瞬間、内容は綺麗さっぱり忘れてしまったのに胸の中にモヤモヤしたものが残っているからだ。はっきり覚えているか、見たことさえ忘れてしまえれば良かったのに中途半端にくすぶっているのは気分が悪かった。
ベッドにうつ伏せにしていた体を起こす。パサリと軽い音をたてて何かが床に落ちた。正体は数ページめくられた状態の脚本だった。手を伸ばして拾い上げる。
「何で人を殺

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赤におぼれる ~第三話~

※ この作品には流血表現や人が死ぬ描写が含まれています。苦手な方はご注意下さい。

上映会の前日、予想よりも早く映画が完成したお陰で修羅場は回避できた。もうやれることはない。最終チェックをしている監督達に手を振ってエイは部室を後にした。

外はまだ夜の闇に包まれている。時刻は午前一時を少しまわったところだった。上映会前日は東の空が明るい最中に帰宅することが多いから、今回は大分頑張ったんだなと頭の中

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