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50音で続ける物語

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「あ」から始まる140字で繋がる物語。 果たしてどこまで続いていくのでしょうか?
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【後書き】
50音でつづける物語、完結しました。
どうなることかと思いましたが無事に終えられてホッとしています。
・タイトルは漢字一文字読みは二文字にする
・ストックは作らない
・二日に一つ書く
というしばりでやってました 笑
自分で決めたことですが意外と楽しかったです。

【面】
面と向かって言ったことはなかったな、と頭の片隅で他人事のように思っていた。
「一緒に生きようか」
目をまん丸に見開いた後、見たことがないくらい綺麗に笑って頷いた。
ずっとこの言葉が言いたかったのかもしれない。
一緒に死ぬんじゃなくて、一緒に生きる約束の一言を。

【胸】
胸の奥底でくすぶり続けている君への感情はどう言葉にしたものか。
いまだに答えは見付からないままだった。
「眉間にしわ寄ってるよ」
我にかえると君が顔を覗きこんでいた。
近くで見た君はやはり綺麗な顔をしていた。
何でもないと誤魔化すこともできたが、口は別の言葉を発していた。

【耳】
耳鳴りがすると幽霊と目があっているらしい。
そんな話を君にしたらこう言われた。
「なんで見えないのに目があってるって解るの?」
正論すぎて僕は返事が出来なかった。
君は信じていないだろうが僕はこういうのを信じるタイプだ。
似た者同士の僕と君で唯一違いを感じたところだった。

【窓】
窓に映る君は少し眠たげだ。
乗客は僕達以外に数える程度しかいない。
揺りかごのような心地よい揺れに誘われて君の目蓋はどんどんおりていく。
「寝ていいよ」
「んー」
「ついたら起こすから」
「うん。ありがとう」
君は眠りの世界に落ちていく。
肩越しに君の体温が伝わってきた。

【他】
他の人だったら笑うか引くであろう言葉。
しかし君はどちらの反応も示さなかった。
「私でいいんですか?」
困惑した表情のまま聞き返してきた。
「面白くもなんともありませんよ?」
「君がいいんです」
「そうですか。ではよろしくお願いします」
おかしな会話を機に僕達は始まった。

【変】
変に気取らないのが君の長所だと思う。
「ごめんなさい。前にお会いしたことありましたっけ?」
君は困ったように首を傾げた。
ショックだが、折角再会したのだからここから始めればいい。
「僕と仲良くなってみませんか?」
友達という言葉は使いたくなくて変な言い方になってしまった。

【風】
風鈴が窓辺で揺れる季節に僕達は再会した。
「あ」
思わず声が漏れた。
構内を一人で歩く君を見付けた。
何と声をかけたらいいものか、思考をめぐらせていると君と目があった。
「あの」
今しかチャンスはないと思った。
「僕のこと覚えてますか?」
暫しの沈黙の後、君は口を開いた。

【人】
人気のない街並み。
まるで僕達二人、世界から切り離されたみたいだ。
「雨の音を聴いてると落ちつくの」
「そうなんだ」
「だから雨が好き」
独り言のように君は呟く。
再び沈黙がおとずれて、やがて雨が止んだ。
「行かなくちゃ」
そう言って歩き出した君を引き止める術はなかった。

【春】
春だというのに空気は冷たい。
両手の平をこすりながらあちこちに視線をさ迷わせている。
何か話をしなければとは思うのだが話題が思い付かない。
「雨、止まないね」
「……そうだね」
その場しのぎの話はすぐに途切れてしまう。
沈黙が息苦しかった。
「でも私は雨、好きだよ」

【軒】
軒下で雨宿りをしている君を見付けた日から僕達の物語は始まった。
じっと雨空を見上げる君は独特の雰囲気をまとっていた。
「ねえ」
声をかけるとゆっくりと顔があがる。
黒曜石みたいな双眸が僕をとらえた。
「僕も雨宿りしてもいいかな」
少し間があいて君はコクリと首を縦にふった。

【熱】
熱の冷めた君の手を握り、日が沈んだ海岸を歩く。
半歩後ろを歩いている君を盗み見る。
海を眺めていて僕の視線には気付かない。
涼しさを増した海風が君の髪を揺らす。
海岸を出るまでは手を離したくない。
まだ海に君を連れていかれたくないから。

【沼】
沼のように不透明で底が見えない想いを君は抱えているらしい。
「解らないの。自分の感情が。貴方のことが気になってる。もっと沢山話したいし色々な所に行きたい。でも好きなのかは解らないの。だから“多分”なんだ」
それはなんて君らしい告白なんだろう。
僕は静かに笑った。

【西】
西日が反射して海がオレンジ色に輝く。
それを背にして立つ君が別人みたいに見えた。
綺麗だ。見惚れていると君がゆっくりと口を開いた。
「私ね、多分貴方のことが好き」
突然の告白に驚くよりも別のことが気になった。
「多分ってどういうこと?」
聞き返すと君は困ったように笑った。