怒りにまかせて書いたのなら、きちんと抹消してほしい。
#20240315-374
2024年3月15日(金)
可燃物の日なので、家中のごみ箱の中身を集めていただけだった。
ノコ(娘小4)の部屋にあるゴミ箱を覗いたら、紙切れが1枚入っていた。
ゴミ箱をひっくり返して空にするより、その1枚を取ったほうが早いから手を伸ばした。
紙面いっぱいに小さな字が並んでいる。
見出しは「さくぶん」。
さっと目を通すと、ノコが里父であるむーくん(夫)への怒りを書き連ねたものだった。
パパきらい大きらい。
パパはいつもわたしにおこってきます。
ノコの激しい怒りはあまりにも頻繁で、私が話を聞くだけではおさまらないときがある。家の外でのことならば、私もノコに寄り添った言葉を掛けられるが、相手がむーくんとなると難しい。ノコにそういいたくなる心情も、ノコがそういわれても仕方がない言動をしたことも、現場を見ているので、むーくんがいうことがわかってしまうのだ。
1年生の頃だったか、ノコが怒りを持て余していたので紙に書くことをすすめた。
書いて、書いて、書き殴って、それをビリビリに破いて捨てたらスッキリするかもよ、といった。ノコは半信半疑な表情で紙に向かい、やってみたものの、釈然としなかった。
「なんか、無駄だし」
気持ちが晴れず、書き損だったとノコはぼやいた。
そういったものの、ノコは今でも時折紙面に怒りをぶつけている。乱暴な字が踊った紙を破り捨てずに放置しているので、掃除をしているとノコの机の上や本棚のすき間から出てくる。隠しているものを私が探すわけではない。ノコは物の管理がずさんなため、積み重なった本の山が崩れた拍子に出てきたり、押し込め過ぎた棚が絶えきれず物が落下した折りに出てきたりするのだ。
ゴミ箱にあった紙切れも昨夜書いたものではない。
おそらくメモ帳を使おうとしたら、だいぶ前に書いたものが残っていたので捨てたのだろう。
怒りにまかせて書いたからか、文章力が未熟だからか、わかりにくい文が続く。
パパは怒っているということをアピールしたくてノコがわざと乱暴な振る舞いをしているのだというけれど、「パパだってそうでしょ」といいたいが、いえない。そう書いてあるようだ。
ただ最後の一文は見逃せなかった。パパにいえない理由。
パパがめちゃくちゃおこってわたしをなぐるからです。
むーくんはノコを殴ったことはない。
夫を信じたいから現実逃避をしているのではない。
ノコは私と2人きりの時間はあるが、夫と2人きりになることはほぼない。
習い事の送迎の道中か、もしくは数ヶ月おきにある私の通院日、または美容院の日くらいだ。それも平日なので、下校後の数時間だ。そこで起きたのかもしれないといわれれば私も言葉に詰まるが、今までノコが顔を腫らしたこともなければ、体に不自然な打撲痕もない。
うぬぼれかもしれないが、そんなことがあれば、帰宅した私を出迎えたときのノコの表情でわかると思う。
殴ったことがないとわかっても、確認は必要だ。
下校したノコがいつも通り、私の膝に乗ってきた。
「ママママ、ぎゅうううう」
私がノコを抱き締めると、ノコも抱き締める。
「あのね、ノコさん。ママが探したわけじゃなくて、普通にゴミ箱に入ってたんだけどね」
エプロンのポケットからノコが書いた紙片を取り出す。
「ノコさんがパパを嫌うのはいいの。好きになる気持ちも止められないけれど、嫌いになる気持ちも止められないからね。感じちゃう気持ちは、その人だけのものだからね。でもね・・・・・・」
私は最後の一文を指で差す。
「これは見逃せないんだ。ノコさんはパパに殴られたことがあるの?」
ノコは私の手からメモを奪うと、こまかくこまかく破きはじめた。
「ない!」
「たとえ大好きなパパでも、ノコさんを殴ったのなら話は別だよ。ママはノコさんの味方。殴るようなパパとは一緒にいられない」
「殴ってないから!」
ノコを顔を覗きこんで、私はもう一度確かめる。
「パパはノコさんを殴ったことがありますか?」
「ないです。パパ、殴ってない」
私はノコをもう一度強く抱き締める。
「わかった。でも、もし殴られたりしたらママに教えてね」
何度もノコはうなずくと、こなごなになった紙片をゴミ箱へ捨てた。
怒りをぶつけただけなのだろう。わかっているが、このことを私はすぐにむーくんに伝えられない。
もう少し、もう少し時間が経てば、ノコの作り話をむーくんも私も傷つくことなく、笑い飛ばせるようになると思う。
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