見出し画像

三食作る長期休みは、思いのほかストレスとなる。

#20240106-334

2024年1月6日(土)
 あぁ、多分冬休みだからだ。
 朝、昼、晩と三食作っているからたまってしまったのだ。

 食材や味付けの好き嫌いなら、まだ対応しやすい。
 ノコ(娘小4)の食事には波がある。ノコが「食べたい」というから作ったのに、目の前に出すと「いらない」という。心底嫌そうに皿を見下ろし、顔をしかめる。
 食が細いので、「食べたい」というものを出してあげたいのだが、舌の根も乾かぬうちに「食べたい」が「いらない」になる

 今日は昼食にお好み焼きを食べたいとノコがいった。
 キャベツを切らねばならないし、フライパンで焼くので2人前となると2回焼かねばならない。この冬休み、ノコはお好み焼きを好んで食べている。手間だが、ノコが食べるのならばと作った。
 「はい、できたよ。ご飯にしよう」
 スピーカーのついたペンで文字をなぞると英語が流れる子ども向けの英語学習教材で、ノコは次から次へと賑やかな音楽を流しては歌っている。
 一度、二度、三度、声を掛けて、やっとノコがテーブルについた。
 「マヨネーズは塗る?」
 「塗る!」
 「このくらい?」
 「あともう少しチョーダイ」
 「このくらい?」
 「うん!」
 お好み焼きの上にのせたマヨネーズをスプーンで広げる。
 「ソースは?」
 「かけて、かけて」
 ソース、鰹節、青のり、紅生姜とすべてノコの注文通りにお好み焼きを仕上げていく。
 続いて、私のお好み焼きも手早く済ませた。
 「さぁ、食べよう」
 椅子に腰を下ろし、ノコの顔を見ると、眉根が寄っている。
 ノコが食べたいといったお好み焼き。
 ノコがのせたいといったトッピング。
 ノコが嫌そうに箸先で突いている。
 「ママ、食べたくない
 ノコは「後で食べるから」といって昼には食べず。「温めて」というから電子レンジにかけて夜に出したが、やはり食べず。

 冬休みに入ってから、こんなことを繰り返されて疲れてしまった。
 作る手間、私の思い、食べ物を捨てるという行為。
 おいしく楽しく食べてほしい。
 無理矢理食べさせたいわけではない。
 「食べたくない」というものを無理強いしたら、食べることが嫌いになってしまう。
 だが、食事にはたくさんのものが付随する。食材の命、それに関わった人たちの労力と思い、食べるものがあるという幸運。
 強いることはしたくないが、粗末にしてほしくない
 風邪引きのノコが箸をつけた食事を食べることは避けたい。そして、私もむーくん(夫)もノコの「残飯処理係」ではない。
 「食べたくない」
 夕食に出したお好み焼きをノコが押しやる。
 「……わかった。食べたくないのならいいよ」
 ノコが私の顔をおずおずと見やる。
 そんな顔で見るくらいなら、「食べたい」っていわないでよ。作らせないでよ。
 あぁ、私は怒っている。
 ノコの望みを叶えたのに、喜ばれないことを。
 思いも労力も食材も無駄になってしまったことを。
 お好み焼きの皿を手に立ち、捨てる。指先が震えるのは、食材を無駄にした罪悪感か、ノコへの怒りか。
 怒られるのではないか、とびくびくしているノコにほほえむことはできるが、それでいいのだろうか。

 私は席を立つと、夫婦の寝室へ向かった。
 明かりをつけず、真っ暗ななか、床に座って目をつむった。
 深呼吸をする。
 たぎる感情が次第に荒々しさを失くしていく。あと少し、あと少ししたら、ノコににっこり笑えると思う。
 笑えば、笑えばいいのだろうか。

 ――そうではなくて。

 私は居間に戻ると、うつむいたまま、ちらちらと私に視線を送るノコの顔を見た。
 「ママは、ノコさんに楽しく、おいしく食べてほしいと思ってる。食べたくないものを無理矢理食べさせたいわけじゃない。だから、ノコさんが食べたいっていったものを作ったんだけど、それでもダメならさ。ママ、どうしたらいいんだろう」
 椅子の上で、ノコが小柄な体をますます小さくした。
 「ごめんなさい」
 「謝られても困るんだ。無理に食べさせたくないから、残しても『いいよ、いいよ』っていえればいいのかもしれないけど、食べ物を捨てるのは本当に本当にママは嫌いなの。それに、食べたくなければ捨てればいいってノコさんに思ってほしくない」
 困惑している気持ちをそのまま伝えることしか思いつかなかった。
 表面だけの笑みは、感情を学び中のノコに誤解を植え付けてしまいそうだ。
 「ノコさん、ママはどうしたらいい?」
 目を伏せていても瞼が動くので、ノコの双眸が左右に揺れているのがわかる。
 ノコはなかなか口を開かない。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録

これからの家族のかたち

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?