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DiDi程峰さん+出前館藤原さんの「アフターデジタル的組織論」【L&UX制作記⑤】

ついに来週、5月17日スタートのL&UX2021、今回は中国を代表するOMO企業DiDiのクリエイティブ統括、程峰(ChengFeng)さんと、出前館COOの藤原彰二さんの回をご紹介します。


■ セッション概要

5/21(金)18:00-19-00
デジタル×リアルのUXアーキテクチャ
程峰(DiDi) / 藤原 彰二(出前館) / 藤井 保文(ビービット)

今、多くの企業が、オンラインとオフラインの融合(以後OMO)に悩まされています。OMOは、ユーザから見た場合にはオンラインもオフラインも関係なく、ユーザはただ単に、最も便利な方法や最も好きな方法を選びたいだけである、という考え方で、このデジタル融合時代において成功企業が共通で持っている思考法です。

これまではビジネスプロセスや収益構造を起点にして「ユーザ体験のプロセス」が決定されており、ユーザにとって負荷をかける事もしばしばありました。

しかしモバイル、IoT、センシングなどが登場し、リアル空間も含めて様々なUXを作り出すことが可能になり、UX設計の自由度と可能性も同時に高まりました。

その結果、テックとUXを巧く混ぜ合わせることで、「他社と差別化できるほど、圧倒的に使ってもらえるUXを提供する」ことが可能になります。UXの品質を最優先にすることでユーザに選んでもらい、その時にオンラインだとかオフラインだとかいう企業の都合は関係ないものである、とするのがOMOの本質です。

しかし、この実現はなかなかに難しく、オフライン由来の企業はオンラインに弱く、オンライン企業はオフラインに弱い、という状況になっています。

DiDi、出前館ともに、デジタルとリアルを融合させてサービス展開を行う日中の代表企業であり、サービスの価値定義やポジショニング、UX作り、ブランドやデザイン、全てにおいて先進的取り組みを行う企業であると言えるでしょう。この二つの企業の考え方や成功要因を、最新のものに限らず、どのように発展してきたかを含めて伺うことで、この融合に悩む皆さんに対して、様々な示唆をお届けしていきます。

■ みどころ① DiDiにはUX専門職がいない、なぜなら...

2017年ごろ、私が上海でリサーチをしていた時に、「DiDiにはUXの専門職がいない。なぜならUXに理解があり、一定以上能力がある人しか雇わないからだ。」という話を聞いたことがありました。

DiDiの内部の方から聞いていたので、一定信憑性があるとは思いつつ、実はこの撮影の日まで半信半疑でした。

なので、撮影であえて聞いてみました。「以前に聞いたことがあるんですが、DiDiにはUXの専門職の方はおらず、基本的には全員がUXできて当たり前、という形になっていると聞いたんですが、それって本当ですか?」

すると、以下のような回答が返ってきました。

「はい。事実です。DiDiのビジネスモデルはこれまでの中国の伝統的なインターネット企業、純オンラインのインターネット企業とは異なります。伝統的なインターネットサイトを運営する会社の場合、UX部門とはデザイン部門にあたります。というのもデザインは基本的にユーザーのオンラインの情報アーキテクチャやインタラクション、UIなどのデザインをカバーしているため、ユーザーによるすべての操作は基本的にこのオンラインのインターフェース上で完結します。ですので、純オンラインのインターネット企業においては、これがUXに相当するのです。」
「しかし、オンラインとオフラインにまたがるモデルの会社においては、UXは一筋縄ではいきません。DiDiの乗客用アプリではオンラインの一部の操作しかできません。そのため社員全員がそれぞれのセクションや立場で、UXという意識を持っていなければなりません。でなければ、会社全体の全てのユーザーフローにおけるUXの改善は不可能です。」

この発言には様々な示唆が含まれています。

まず、顧客接点が多岐にまたがる場合に、全ての顧客接点において発生するUXをより良くしていかねばならない、という前提が存在しています。多くの企業において、UXの専門家は特定のデジタル部署の中にいることが多く、そもそもUXをデジタルのものとして捉えていない点が重要です。

他にも、横ぐし部門としてUX部門を整備し、会社全体の体験を管理する組織構造になることも見受けられます。この場合、「全ての顧客接点がUXを提供しているのだ」という認識はあるのですが、そう思っているのは一部のマネジメント層とUX部門の人だけで、実際に様々な部署に行ってUX改善の話をすると煙たがられることが非常に多いのが現状です。

アフターデジタルの中でも、DiDiの事例は特にドライバーを含むUX設計の例としてUBERよりも優れた仕組みになっている、という話はよくしますが、体験価値を担保し改善する上で、全員がそれを理解している組織を作ることの強さが伺えます。

ここから更に、どのような考え方なのか、また出前館ではこうしたことがどのように考えられているのかが話されていきますので、そちらは本編で。

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■ みどころ② 横ぐし組織の難しさ

LINEのいくつかのグループ会社でCMOなどを務められていた藤原さんは、マーケティングや事業成長など様々な観点を持つ方なので、「UXをより良くするためにも、こうした多様な観点を持つ方が組織横断的に動くことは重要だと思うんですが、どう思われますか?」という質問をすると、

「それはそうなんだが、多くの企業や組織では、横断的に動いていく人材を評価する指標を持っていないため、成果が出せないんですよね。なので一番苦しいのは、横断的に動くことは価値を担保し改善する上でも非常に重要なんですが、評価がされにくく、出世がしにくいというところなんです。」

と答えられました。

これはもう、なんというか本当に難しい課題。

特定の成果を定めて、その成果を上げるために横断的に動くUXグロースチーム的な活躍の仕方であれば可能なのでしょうが、認識が揃わず、それがしにくい組織構造の時に横断的に動くことの難しさを端的に示しています。


■ 全体を通して

リアルとデジタルが融合するビジネスモデルやOMOの実現においては、単純にビジネスの構造としてそれっぽくすることよりも、何より組織課題が重要であるという点は、実際に実践している様々な方から聞くことです。

何故なら、価値を一定に保つにしてはあまりに多様な接点が存在し、それらが連携するため、ケイパビリティを多様に持つ人々が同じ価値や水準を見定めないといけないためです。

「OMO実現の本質は組織論」という非常に重要な議論、是非お見逃しなく。動画の公開は21日です。


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