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【カオス病院 #11】伝線ストッキングとの戦い


私は非常におおざっぱである。消費期限切れのチーズケーキを平気で食べるあたり、お察しだと思うが……(詳しくは「【#4】愉快な手術室〜ターゲットになったら終了〜」を見てね!https://note.com/fujimi_hazuki/n/nf6ae44657a78)。

私たちは業務によって事務服を着ることがある。その際はストッキングを履くのだが……。女性の読者であれば説明するまでもないが、これが本当に繊細で、ちょっとした刺激ですぐに伝線してしまう。しかも、決して安くはない。

「あ、藤見さん。ストッキング伝線してるよ」

「えっ! あー……。ほんとだ……」

潔癖さんに指摘されて見ると、ふくろはぎの辺りが伝線していた。多分、履くときに爪で傷つけてしまったのだろう。

「ストッキングってなんでこんな破れやすいんだろうね……私も先週伝線したよ」

「ほんとね。そもそも、履く意味がよく分からない。機能性ゼロだよ。防御力もゼロ」

しかし、どうしたものか。用意が悪い私は替えのストッキングなど一枚も持ち合わせていない。病院内の売店でも購入できるが、はっきり言ってかなり高くつく。

ちなみに、私は色々なストッキングを試した時期があった。こんなに破れやすかったら世の女性はストッキング破産してしまうし、破けないストッキングがあるに違いないと、半ば藁にもすがるような気持ちで試していたのだ。

結果、高いストッキングは履き心地がいいし、見た目も高級感があって非常に素晴らしいのだが、いくら高級でもやはり耐久性はそこまで変わらないのであった。
一枚千円近くするストッキングを、たったの二回目くらいで爪を引っ掛けて伝線させた時はショックで一日ブルーだった。そんな経緯もあり、私はもう西友の三足799円のストッキングしか買えなくなっていた。
だが、残念ながらこの近くには庶民の味方、西友はない。

ふと時計を確認すると、現在午後三時。定時まであと二時間。たった二時間なんとか出来れば良いのだ。もし肌色のストッキングだったなら、伝線してもそんなに目立たないが、今日は黒のストッキングだ。誤魔化しはきかない。

私は悩みに悩んた結果、ある名案を思い付き、さっそく実践した。

「ねー、潔癖さん。今日ってさー」

「なにー?……って、なにそれ!?!?」

「あ、やっぱ近くだと分かっちゃう? でもこれ名案でしょ~我ながら天才かと思った。真似してもいいよ。あ、でも潔癖さんはこんなことしないかー」

私が思いついた手段、それは伝線して見えた肌をマジックで黒く塗ることだった。黒ストッキングの時のみ使える荒業だ。実際、遠目ならなんとか誤魔化せるレベルには仕上がっていた。

誇らし気に語る私に対して、潔癖さんは無言で財布から千円札を差し出した。

「えっ……なに……? アイディア料?」

「これ、貸してあげるから今すぐ買ってきな」

「え? いや、お金はあるよ! だけど売店のやつ高いし……あと二時間くらいなんとかなるかなー……なんて……」

「買ってきな」

「……はい」

私は、潔癖さんから半ば強制的に渡された千円札を握りしめて泣く泣く売店へ向かうのだった。

そのストッキングは私の願いのお陰か、潔癖さんの同情からか、なかなか伝線せずに結構長い間活躍してくれた。

著者:藤見葉月
イラスト・編集協力:つかもとかずき

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