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「受け入れ」ではなく「受けとめ」

先日、人材開発の専門家や企業の人事担当者の方と交流する会に参加しました。オンラインで2時間、相互紹介や最近気になるテーマなどについて、ざっくばらんに意見交換する有意義な時間でした。

その中で、「心理的安全性」をテーマに意見交換する機会がありました。「心理的安全性」については、その重要性が盛んに言われるようになってきたこともあり、参加者の企業等でもやはり重要テーマとして取り組まれているということでした。

心理的安全性の定義や、それをつくり出すためのポイントはいろいろなところで説明されています。そのうえで、意見交換した方との間で改めて話題になったのは信頼関係の大切さです。信頼関係があるから心理的安全性につながるのか、心理的安全性が信頼関係を生み出すのかは、卵と鶏の関係の側面があるかもしれませんが、いずれにしても信頼関係がカギになるだろうということで、意見が一致した次第です。

信頼関係をつくるために必要な行動はいろいろあると思いますが、この日意見交換したことの中から主に3つ印象に残りました。ひとつは、「受けとめ」です。

「受けとめ」は「受け入れ」とは違うという示唆をいただきました。次のようなイメージです。

受け入れる:自分の賛否に関係なく、相手の言うことを飲み込む
受けとめる:相手の言うことを理解する。手のひらで受けとるが飲み込むわけではない
否定・反発する:相手の言うことに対して、同意できないとして突き返す

受け入れの場合、自分も賛同や同意できることならかまわないが、自分が同意できないことだと自分にとってのストレスの一因になる。否定・反発する場合は、拒絶されることによって相手の中でストレスの一因になる。このストレスによって、信頼関係が深まらなかったり、逆に後退することにつながったりするというわけです。

カウンセリングやコーチングでは、よく「共感はするが同感はしない」ことの重要性が言われます。上記の例で言う、受けとめ=共感、受け入れ=同感、に通じます。相手の話を拒絶することはもちろん、自分の意思に関係なく相手の主張に飲み込まれることも、一見すると丁寧に話を聴くようで、最終的にお互いのためにならないということです。

2つ目は、「自己基盤」です。「自己基盤」は、受けとめがよりよくできるようになることにも通じます。

自己基盤の定義もいろいろあるかもしれませんが、同意見交換の場では、「自己理解」と「自己肯定」がポイントだという話になりました。自分がどういう特徴の人なのかを理解し、そのことを肯定的に捉えてあげるということです。それにより、自分の土台が強化されます。

自己基盤がしっかりしてくると、他者の基盤にも目が向きやすくなります。つまりは、他者のことも大切にしようとする姿勢が高まるというわけです。自分と相手の双方で、自己基盤がしっかりし受けとめができると、信頼関係が深まることにつながります。

とても分かりやすい比喩として、「自己基盤を確立して、受けとめができることは、グローブ(野球で使う道具)が広がるイメージだ」という示唆を得ました。お互いの持つグローブが広がるイメージが、信頼関係が深まるイメージに通じると思います。コミュニケーションのボールを投げた時に、問題なくキャッチできる範囲が広がるわけです。

3つ目は、「自己開示」です。心理的安全性の担い手は「人」です。人対人である以上、自分がどんな人なのか、鎧を脱いで自己開示し合うことが、やはり信頼関係につながるというわけです。

1対1ミーティングを学ぶ管理職研修を企画した方から、次のような話の紹介を受けました。

「1対1ミーティングの練習では仕事以外のプライベートのテーマが扱われることがある。仕事上で対立する意見があっても、プライベートの話を聴くと、この人も人間なんだと感じることで距離が縮まる。人対人の付き合いが生まれる。それがあると、仕事で意見の対立が生まれるとしても、建設的なディスカッションになりやすい」

「心理的安全性を強調しすぎて、不快でないコミュニケーションが増えたものの、本音や反対意見が出にくくなった。イノベーティブになりにくい、結論が出にくい」という話もありました。それは、本当の心理的安全性が成立したとは言えない状態のはずです。上記のイメージで、建設的なディスカッションもできていると思えている状態が、真の心理的安全性なのだろうと言えます。

自己基盤をしっかり固めたうえで、相手のことを受け止めながら聴く。自己開示でそれらを促す。身のまわりで参考にできる視点だと思います。

<まとめ>
「受けとめ」と「受け入れ」は異なる。

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