減収減益も、無借金の超優良な財務状態

8月4日の日経新聞で、「任天堂、営業益15%減 4~6月、スイッチ販売振るわず」というタイトルの記事が掲載されました。タイトルだけ見ると同社の収益状況が懸念されるようにも映りますが、実態はどうなのでしょうか。

同記事の一部を抜粋してみます。

任天堂が3日発表した2022年4~6月期の連結決算は営業利益が前年同期比15%減の1016億円だった。半導体不足の長期化でゲーム機の生産に制約がかかる中、新型コロナウイルス下の「巣ごもり」需要は一服しつつある。インフレで娯楽への支出が落ち込む可能性もあり、好調だったゲーム市場が踊り場を迎える懸念が出てきた。

売上高は5%減の3074億円、純利益は28%増の1189億円だった。同社は欧米など海外での販売比率が8割近い。本業のもうけを示す営業利益は減ったが、円安の影響で517億円の為替差益が発生し、純利益は同期として14年ぶりに過去最高となった。

主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の販売台数は23%減った。ソフトの販売も9%減となり、ゲーム機の落ち込みを補いきれなかった。スイッチは無線通信機器や半導体などの調達が滞っているとみられ、十分な量が生産できていない。

古川俊太郎社長は日本経済新聞の取材で「通常なら夏場に在庫をためて最盛期の年末に備える。今夏は例年のように生産できていない」と語った。2100万台とする23年3月期のスイッチの販売計画は据え置いた。

ゲーム市場はコロナ下で好調が続いてきた。オランダの調査会社のニューズーによると22年の世界のゲーム市場も前年比5%増の2031億ドル(約27兆円)になると予想する。だがゲーム機の供給制約で商機を逃している間に経済再開が進み、巣ごもり需要の追い風も少なくなりつつある。

減収減益ということですが、それでも1四半期で売上高が3074億円、営業利益が1016億円あります。売上高営業利益率は33%を超える超高収益体質です。「営業利益15%減」など、記事のキーワードだけ追うと同社の経営状態はどうなのか不安に感じやすくなるかもしれませんが、現時点では不安は無用だというのが改めてわかります。

さらには、貸借対照表の中身です。決算短信を見てみると、流動資産(1年以内に現金化できる資産)が2兆97億円、流動負債(1年以内に返済しないといけないお金)が4910億円となっています。流動比率(流動資産/流動負債)が100%を切ると、1年以内に借金の返済が滞る状態だと言え、危険水域となります。同社の流動比率は400%を超えていて、しかも1年前より増加しています。仮に今後4年間まったく事業・売上が止まってしまっても、持ちこたえられる状態だというわけです。極めて良好な財務状態だと言えます。

しかも、流動資産のうち、現預金が1兆1230億円です。その気になればすぐに市場で売って現金化できる有価証券も4416億円あります。一方で、流動負債は、買掛金や未払法人税などのみで、金融機関からの借金はありません。実質的な現金を、借金なしで1.6兆円程度も持っている企業は、そうはないでしょう。

記事は全体的に、巣ごもり需要の追い風が減退、先行き懸念というトーンですが、記事中にもあるようにゲーム市場の拡大を予想する調査結果もあります。巣ごもり需要は一過性のもので終わるとは限りません。新しい日常として定着・拡大する可能性もあります。Eスポーツの拡大基調も叫ばれています。供給制約の影響は懸念されるものの、市場規模自体が停滞するのかは、慎重に見る必要があると思います。

「インフレで娯楽への支出が落ち込む可能性」についても、レジャーランドなどのほうが影響が大きいかもしれません。移動費、入場料、外食費など、何重にもインフレの影響を受けた支出要素を含むためです。ゲームであれば、すでにハードのゲーム機を持っていれば、インフレ要素はソフトのみです。可能性の想像ですが、落ち込む娯楽支出の中で、むしろ選ばれやすくなるかもしれません。

その中で、ゲームという商品は、もともと「ホームランか三振か」のように、新作が当たるかどうかで収益がぶれやすいという特徴があります。同社が集中すべきは、ホームランの確率と数を高めるための取り組みではないかと考えます。すなわち、スイッチのハードの販売も押し上げるソフトの開発、スイッチの次に収益の柱となる商材の開発、それらを可能にする人材の採用、などの投資です。

自社の財務情報を的確に理解し、過度な不安もその逆の慢心も起こらないようにし、必要な取り組みを定義して実行することは、大切だと思います。

<まとめ>
自社の財務情報を的確に把握し、アクションにつなげる。

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