8月23日の日経新聞で、「海外IT人材活用「宮崎モデル」の力 隠れた大国から獲得」というタイトルの記事が掲載されました。どの業界も人手不足・人材不足と言われていますが、IT業界はその筆頭業界のひとつです。経済産業省の試算では、2030年には日本国内で約45万人のIT人材が不足するとしています。
地方都市でこの課題への解決に成果を上げている例として、IT人材をバングラデシュから呼び込む宮崎大学や宮崎市などの取り組みを紹介しています。同記事の一部を抜粋してみます。
私は九州には出張の機会も時々あり、宮崎県の話を聞くこともありますが、宮崎モデルがこのような成果を上げているというのを改めて知り、とても興味深く目を通した次第です。
同記事内容が示唆するポイントを挙げてみます。
・需要と供給がマッチングしている
同記事からは、バングラデシュ人のIT人材力の高さがうかがえます。それでいて、有力な就職先が国内には少ない。IT人材の需要<供給という状態のようです。一方の日本は、需要>供給という状態です。
当事者のIT人材にとって、需要>供給のエリアで供給者となることは、当然魅力的に映ります。相手国のエリアが需要>供給の状態であれば、日本の魅力は相対的に下がります。人材に限らず商品・サービスも含め、需要と供給の関係がビジネスモデルのベースになるということを改めて感じます。
・企業も教育投資を積極的に行う
日本語等の教育が大学で行われているとはいえ、それだけで企業内の活動に十分な日本語力等が身につくわけではありません。日本人の新入社員以上に費用のかかる教育も必要になるかもしれません。しかし、国を超えて有力な人材を引きつけるには、教育費用を投資と捉えて実行することの大切さが改めて分かります。
・囲い込もうとせず適正な処遇をする
人材を的確に評価して処遇する人事評価制度が必要です。「外国人だから」といって特殊な評価体系や賃金体系で処遇するのではなく、「バックグラウンドが違う同僚」として日本人にも適用されている評価体系や賃金体系で処遇することです。
例えば、高い技能や英語力等を評価して高い処遇をするのであれば、同じ条件を満たす日本人も同様に処遇するのが妥当です。ましてや、一昔前に多く見られた、外国人労働者だからという理由だけで安い賃金で雇用しようとするのは論外です。
加えて、同記事には帰国後に起業を考えている技術者を支援する姿勢も大切とあります。国を超えてわざわざ雇った人材に対しては、日本人以上に「出て行ってもらっては困る」と考えたくなるものです。しかし、就業先は労働者の意志で選ぶものという基本に立って、人材の成長を支援する姿勢が結果的に最大限長く働いてもらえることにつながるのではないかと思います。
・多様性と共生する
イスラム教徒は1日に5回礼拝する習慣があります(細かくは宗派によっても違うようですが)。就業時間はこのことも配慮する必要があるでしょう。こうしたことも含めた多様性の理解と共生が不可欠であることが、同記事からもわかります。
・産官学連携も成功事例となり得る
政府の予算も活用した産官学の取り組みは、うまくいかない事例を聞くこともあります。そのうえで、同記事を参照すると、産官学連携も大いに可能性があることを感じます。
ただし、闇雲に予算をつければよいというわけではないのだと思います。上記で挙げたように、産官学が共通の明確な目的をもって協業すること、その取り組みによって恩恵を受ける対象者(この場合はバングラデシュ技術者)のことを本当に考えて施策を実施することが、必須条件ではないかと考えます。
・地方の凝集力を活かす
経済規模が大きく人口も多い都道府県を大企業(大組織)に例えると、地方の県は中小企業(小組織)と例えることができるかもしれません。しかし、小さい組織は構成メンバーが一体となった時の強い凝集力とスピード感を出せることが、大組織にはなかなか持てない強みです。同事例に関する宮崎県の関係者全体による取り組みは、その強みを感じさせるものがあります。
同記事をさらに参照すると、宮崎モデルの次のような活用事例があります。企業活動のヒントになる事例だと思います。
<まとめ>
パートナー人材に対して、相手目線で有効な投資を行う。