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ベンチャー企業の上場を考える

6月27日の日経新聞で「ispace上場に学ぶ」というタイトルの記事が掲載されました。4月に行われた月面着陸への挑戦の様子は大きな話題になりました。その直前に行われた株式上場についての内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

宇宙スタートアップのispace(アイスペース)が4月12日に上場した。月面への輸送サービスの商用化を目指しており、同月26日の月面着陸に向けて期待が高まった。株価は初値の2倍超になったが、残念ながら着陸は失敗に終わり、株価は半分以下に急落した。

株式上場時の目論見書をみると事業内容の説明が主で、経営に関する数値目標の実現可能性などの記載は乏しい。業績も大幅な赤字で当分の間は利益が出そうにない。つまり将来性やビジョンへの共感に投資する案件だった。

東証も上場審査に手間をかけたと聞いている。技術への評価というよりは宇宙ビジネスの将来性に、東証も夢を追ったということではないか。

幹事証券の顔ぶれをみても評価が難しかったと推察する。注目案件の割には野村証券などが入っていない。アイスペースから声がかからなかったのか、リスク回避から手を挙げなかったのか想像をかき立てる。

最大の疑問が月面着陸という重大イベント前に上場したことである。今回のように着陸が失敗していれば上場できない可能性もあった。成功していれば、さらに多くの資金を調達できたかもしれない。

このような点を考えると、アイスペースは着陸成功の可能性をどれほど見積もっていたのか。これも外から理解することは難しい。株価が乱高下し、上場のタイミングとしては適切だったのかどうか。今後の類似案件の上場時期で判明することになるだろう。

月面着陸は失敗に終わったがアイスペースの挑戦は評価に値する。バブル崩壊後の日本経済は「失われた30年」とも言われる。リスクを取る意識が低く、イノベーションが足りないと批判されてきた。

資本主義が希望や欲望をイノベーションへつなげる要素がある以上、新規上場を通じて成長企業を増やさなければならない。スタートアップに資金が流入すれば、イノベーションが期待できる。特に日本は未上場時の資金調達手段が米国と比べて限られており、早期の上場が重要になる。アイスペースに続くディープテックの新規上場を願ってやまない。

同記事の指摘の通り、失敗後の上場であれば上場できない可能性もあったかもしれません。少なくとも、投資家の期待値に連動する値付けは下がり、今回の上場時以下の資金調達しかできていなかった可能性が高いのではないかと想像します。

上場日が月面着陸にトライした2週間前であることからも、今回の月面着陸に必要な資金は既に調達完了していたと想像します。よって、今後の長期的な事業創出に向けた地盤固めのための上場だったと言えるのではないかと考えます。

株式上場にはいろいろな目的が考えられますが、大きくは以下の4つにまとめられるのではないでしょうか。

1.直接金融(銀行などからの借入ではなく、返済義務のない出資)で資金調達できる

2.社会的な信用を得られる(雇用面や、特に大手企業との取引などでは上場しているほうが選ばれやすい)

3.経営権譲渡・事業承継がスムーズにできる

4.ガバナンス(統治)が効きやすい(株主、外部の目にさらされる)

最近は、上場維持するだけのコストメリットがないと判断し、非上場化する会社も見るようになりましたが、同社の上場はこの4つに適うものではないかと考えます。

事業の性格上、他業界に比べて返済の可能性が読みにくい会社です。返済の確実性の高い会社を好む金融機関からの貸し出しによる調達は、限界があると想像できます。上場しておくことで、今回のような注目案件がある時に増資がしやすくなります。上場には、上場時以外にも維持するための費用・時間のコストが相当にかかりますが、同社にはそれ以上のメリットがあるのではないかと想定されます。

最近はクラウドファンディングなど資金調達の多様化も進みつつありますが、何十億円もの資金を集めるのは難しいと思われます。株で出資を募る方法は、やはり有力な手段になります。

成否が事前に読みづらく、かつ規模の大きな事業を手がけるため、今後の長期的な事業展開を考えると、社会的な信用を得ておくことは必要でしょう。「物がよければ上場・非上場に関係なく売れる消費財」などとは性格が異なると言えます。国内外の人から広く注目される事業だけに、上場によりガバナンスがきく状態にしたいというのもうなずけます。

今回の月面着陸の予定より早すぎる上場だと、事業の輪郭が見えにくいため株価が付きにくいかもしれない。月面着陸に失敗するとやはり株価が付きにくくなりそう。個人的な意見になりますが、今回のタイミングは可能性の中間どころをとった最適な選択だったのではないかと考えます。

そして、今回の事業には、成否が読みにくい分、伸びた時にどこまで化けるか想像もできない大きな可能性が感じられます。投資家としても、利益期待もさることながら、応援金というつもりで投資した方も他案件以上に多いのではないかと思います。事業の変動要素が大きい同社のようなケースこそ、株式上場の目的のひとつが改めて認識できたという、よい事例になったのではないでしょうか。

<まとめ>
上場は、事業を成長させ社会に寄与する可能性を広げることが、やはり本質的な目的である。

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