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商品・サービスの選択と集中

5月25日の日経新聞で「食品 5年で品目3割減 定番に集中、戦略転換 コスト圧縮/値上げ浸透へ/ネット購入増」というタイトルの記事が掲載されました。

国内食品メーカーが商品数を絞っていて、例えば2022年の品目数は5年前に比べて3割減ったということです。物流費や原材料費が高騰する環境下で、ブランド力のある主力商品に宣伝費などを集中して、値上げを浸透させる流れがあると指摘しています。

同記事の一部を抜粋してみます。

全国の小売店データを集計する日経POS(販売時点情報管理)情報で160分類ある食品の品目数の推移を調べた。

2022年は約7万4300品目。12年から17年まで10万品目前後で推移していたが、18年に9万品目を割った。コロナの感染が拡大した21年にさらに8万品目も割り込み、22年の品目数は5年前に比べて28%減った。

この5年で減り幅が大きかったのは、原料高の影響が大きい調味料や食用油脂などを使った商品が多い。しょうゆ(71%減)や食用酢・酢関連調味料(69%減)、マーガリン・ファットスプレッド(67%減)、マヨネーズ(40%減)などだ。

キリンビバレッジは22年に「アルカリイオンの水」2リットルの販売を終了するなど商品を見直し、「午後の紅茶」「生茶」「『プラズマ乳酸菌入り』飲料」へと選択と集中を進めた。ワイン大手メルシャンは22年の新製品数を前年比5割減らした。

背景にあるのが原材料などのコスト高騰だ。食品各社はコスト削減を迫られており、「強いブランドに広告宣伝費や人的資本を集中すれば効率化しやすい」(キリンビバレッジ)という。

ただ、狙いはコスト削減だけではない。食品メーカーは、品数を絞り込むことで値上げ実現も見込む。買い慣れた定番品だと値上げを浸透しやすくなるとの算段だ。

味の素は採算基準を下回った「惣菜中華の素」シリーズ3品の販売などを終了した。23年3月期国内事業で前の期に比べ値上げによって数量が4%減ったものの単価は4%上がった。値上げ効果は53億円の増益だった。

一部商品を見直したキッコーマンも主力品「しぼりたて生しょうゆ やわらか密封ボトル450ミリリットル」の23年4月の平均価格が279.7円と前年同月(271.3円)に比べ3%上昇、コロナ前の19年4月(254.0円)に比べ10%上昇している。

食品アイテムの減少は消費者の購買行動の変化をも映す。一つは電子商取引(EC)の普及だ。経済産業省によると食品関連の国内EC市場規模は21年に2兆5千億円と19年比で約4割拡大した。生活必需品ではなじみのある定番商品が選ばれやすい。

さらに新型コロナウイルス禍を契機に、実店舗でタイムパフォーマンスを意識して滞在時間が短くなった。凸版印刷などの調査では、コロナ禍前後の比較で買い物時間が「20分未満」と答えた消費者が1.5倍に増えた。「失敗したくない心理が働き、知らないブランドを選ばない傾向が強まった」(飲料メーカー)

食品世界最大手のネスレ(スイス)は商品数に相当するSKU(商品の最小管理単位)の数を1年半前に比べ約2割減らした。「成長性の見込める高収益商品にリソースを振り向けることで、消費者が望む商品をより多く提供することに焦点を当てている」(同社)とし、23年もさらに商品数を1割削減する計画だ。

実質賃金が上昇に向かい、消費者の購買力が高まったとしても、原材料高を転嫁し切れていないメーカーも多い。商品数の削減は続きそうだ。

同記事から2つのことを考えてみます。ひとつは、商品・サービスの絞り込みの大切さです。

「事業の選択と集中」、つまりは「やらないことを決める」は、戦略立案における基本とされます。同記事の食品業界の動きは、そのことを改めて感じさせられる内容です。コスト削減効果に加えて、値上げしやすくなる効果があるというメカニズムも、うなずける視点です。

『選択の科学』の著者で知られるコロンビア大のシーナ・アイエンガー教授による実験結果をもとにした「ジャムの法則」というものがあります。選択肢が多すぎると選べなくなってしまう心理現象のことで、「決定回避の法則」とも呼ばれています。次のような概要です。(「社会人の教養」サイトを参照)

<実験の内容>
・スーパーマーケットに買い物に来たお客さんに、ジャムの試食販売をする
・被験者を2グループに分け、それぞれで取り揃えるジャムの種類の数を変えて、どれだけ売れたかを観察する

<被験者グループの条件と結果>
グループA:6種類のジャムを試食販売
試食をした人の割合:40%
試食後に購入した割合:30%
全数の購買率:12%

グループB:24種類のジャムを試食販売
試食をした人の割合:60%
試食後に購入した割合:3%
全数の購買率:1.8%

品揃えが6種類しかなかったグループAは、成約率(コンバージョン率)が10倍。直感的な予想を裏切り、「品揃えが少ない方が売れる」という結果になった。

<結果からの考察>
・24種類は多すぎて全部試食することができない
・多すぎる選択肢は、吟味できない選択肢を与えることになる
・吟味できない選択肢の中にもっと良いものがあるかもしれないと思い、決定できなくなってしまう

要するに、選択肢が多すぎると疲れて意思決定しにくくなる、ということでしょう。

例えば、Apple製品は、各ジャンル内のモデル数が3~4種類程度しかないとされます。iPhoneなら「ハイエンドモデル・大画面モデル・廉価モデル」といった具合です。iPhoneは世界中で売れていますので、もっと選択肢を準備しても相応の販売台数は出そうですが、選択肢として既に十分ということなのかもしれません。同社の収益性の高さは、このようなところも背景にありそうです。

もうひとつは、商品・サービスの絞り込みとそれに伴う値上げは、今後日本でさらに進むのではないかということです。

最大の要因は、人口減少です。人口が減ると市場も頭打ちになりますので、採算性の高い商品・サービスに絞り込む必要がますます高くなります。

これは、一般消費者向けビジネスだけでなく、法人向けビジネスも同様と想定されます。人口減少は法人数減少にもつながります。必要とされる商品・サービスメニューの数と提供する数が今は釣り合っている事業であっても、今後は釣り合いにくくなる流れとなりそうです。(もっとも、外国企業向けに提供するものについては、当てはまりませんが)

多品種少量生産で、一品物のニーズに応えることを戦略にしている企業もあります。そうした企業でも対応品目の絞り込みが有効なのかは一概に言えませんが、少なくとも値上げが必要とされるのは冒頭の記事の通りだと思います。

今後の環境変化を見据えて、必要となりそうな「商品・サービスの絞り込み」「値上げ」は、取り組みの前倒しを行ってもよいのかもしれません。

<まとめ>
経済環境の動向から、「商品・サービスの絞り込み」「値上げ」の必要性はますます高まりやすい。

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