転勤する人にだけ転勤手当を払う
7月25日の日経新聞で「みずほの役割給、グループ横断で」というタイトルの記事が掲載されました。みずほフィナンシャルグループ(FG)が来年度から人事制度を抜本的に見直すことを取り上げたものです。グループの4万5000人を対象に職務内容を明確にして成果できちんと評価する共通の給与体系を導入するとしています。
同記事の一部を抜粋してみます。
「役割給」という設計は、特段の新しい手法ではなく、以前から各社で導入例のあるやり方です。ざっくりとした説明の仕方として、諸外国では採用されることが多い「職務給」(上記記事では「ジョブ型」として表現)をそのまま当てはめようとするとうまくいかないことが多い日本企業で、自社の雇用慣行や風土に合いやすいようにアレンジを加えたやり方だとも言えます。私自身もこれまで、職能給ベースの人事制度から役割給ベースの人事制度への改修に取り組むことが多くありました。
何らかの評価軸を設定して、職務給=職務における対価の値札を明確にするとなると、銀・信・証で従業員が取り組んでいる仕事の種類が異なるため、異なる値札の設定となるはずです。それぞれの職務給に応じた仕事に専念し続ける限りは運営の支障はありませんが、銀・信・証をまたいだ人事配置をしようとすると職務給が変わることになるため、異動の柔軟性はどうしても低くなります。
銀・信・証それぞれの組織内においても、直接部門と間接部門間の人事異動といった、日本企業に多く見られる職種をまたいだ配置転換がやりづらくなります。「どれぐらいの役割レベルなのか」を職種間共通で見ることができる基準にすることで、成果や貢献の大きさを評価しつつも人材配置に柔軟性を持たせることを考えたということだと想像します。
転勤した場合に手当を上乗せするやり方は興味深いと思います。私も以前、このような制度を企業様に提案したことがあります。
全国転勤型、エリア内転勤型、転勤なしのエリア限定型など選択肢を設定して、それによって処遇を分けている企業も多くあります。そのうえで、ありがちな事象として下記が挙げられます。
・自社では拠点数は限られていて、拠点をまたいだ転勤の発生例は少ない。全国転勤型を選んでいても、実際に転勤する人は限られている。
・全国転勤型を選んでいる社員であっても、「近々出産予定がある」「親が病気して今は動けない」などの話が出てくると、転勤を伴う辞令は出しづらい。一方で、本当に転勤できないほどの理由なのか分からないことがある。
・上記のようなことから、転勤に当たる人からは「自分だけ負担が大きい」という不満が出たり、エリア限定型の人からは「全国転勤型でも全然動かない人がいて、自分たちと同じ割には給料を高くもらっている」という不満が出たりして、公平感に欠ける。
シンプルに、実際に転勤した人に対してのみ負担に応じた報酬を上乗せすることにすれば、公平感が担保しやすくなると思います。そうすれば、自ら転勤を志望して申し出る人も増えるかもしれません。
そのような制度に変えようとすると、「これまでさんざん転勤してきた人への保障はどうしてくれるんだ」という意見も出そうですが、必要に応じて個別対応を考えることになるのではないかと思います。
その企業にとって譲れない、企業理念やビジョンへの共鳴、事業展開への理解、求めている貢献に応えるパフォーマンスなどがクリアできたうえで、多様な人材を受け入れ可能にすることは、望ましい方向性だと言えます。
自己都合退職によって退職金が大幅に減ってしまうような制度だと、自社に合わなくて自社を出たい人材がそのままとどまりたくなってしまう効果にもつながり、労使双方にとって合理性も疑わしくなります。多くの人が終身雇用を望んだ以前の社会環境には合っていたかもしれない制度ですが、今では合わなくなっている会社も多いのではないかと思います。
自社にとっての合理性や公平性は、多様な人材を受け入れ可能にするうえでのポイントになります。
<まとめ>
自社にとっての合理性、公平性のある制度は何かを考える。
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