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進出先市場を研究する

12月15日の日経新聞で「中国BYD、日本は登竜門 EV、25年までに100販売店」というタイトルの記事が掲載されました。中国メーカーが日本の自動車市場で本格的に展開しようとしている動きを紹介した内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

電気自動車(EV)大手、中国の比亜迪(BYD)が日本市場の開拓へ投資を増やしている。オンライン販売ではなく、あえて100店体制やEV整備士の育成を主導する。日本市場は輸入車が1割に満たず、日本勢のハイブリッド車(HV)や軽が強い。BYDは国際競争力の高い日本車の牙城で顧客サービスの知見を得て、世界展開を広げる「登竜門」にする。

東京都港区のホテルに10月24日、全国から車を商いにする関係者が集まっていた。EV世界2位のBYDの「ディーラーカンファレンス」。参加者によると、会場がどよめいたのは創業者の王伝福氏がサプライズで登場した時。約60万人を率いる王氏が海外で講演するのは珍しく「1時間以上、日本戦略などを熱く語っていた」(参加者)。

BYDは2023年1~9月期の世界販売が208万台と前年同期を75%上回り、勢いを増す。7~9月期のEV販売は世界首位の米テスラに約3400台差まで迫った。輸出を加速し、特に力を注ぐのが1月に乗用車市場に参入した日本だ。

複数のディーラーによると、BYDのEV販売の目標は全国100店体制にする25年時点で年3万台だ。1店あたり300台の計算で、200台で優良店とされる新車業界で野心的といえる。

BYDの日本の販売子会社社長を務める東福寺厚樹氏は参入を表明する前、テスラのようなオンライン主体の販売計画を練った。だがアジア太平洋地域を統括するBYDジャパンの劉学亮社長は「誰もブランドを知らない日本でこそ、車やディーラーと触れ合ってもらうべきだ。日本の消費者の車への感性は豊かで、オンラインでの攻略は困難」と考え、25年までに100店を築く戦略に転じた。

BYDは70カ国超でEVを売るが、基本は現地資本の総代理店に任せてきた。だが日本は自前でディーラー網を整える。東福寺氏はフォルクスワーゲンの日本法人の元社長で、輸入車の販売経験者を多く採用。カー用品大手や老舗ディーラーと代理店契約を結ぶ。仮店舗を含め、北海道から沖縄まで約50店になった。

日本車の営業マンは対面で機能、保守、買い替えのニーズをきめ細かくつかむ。BYDは商品、保証でも日本流を試す。

9月に発売したドルフィンの廉価グレードは363万円で、航続距離は400キロメートルだ。サイズが近い日産自動車のEV「リーフ」より約1割安く、航続は2割以上長い。

日本中で足りないEV整備士の育成では、創業90年の明治産業(東京・港)と提携した。同社は神奈川県に先端EVも整備できる拠点「Seiken e―Garage」を持ち、BYDディーラーの人材が通う。小野庸司チーフトレーナーは「BYD車を実際に触りながら教え込む」と約60人の訓練を終えた。

日本での商品はまだ2車種だが、購入者は20~80代と幅広い。販売店から「意外とベンツからの乗り換えも多い」との声も挙がる。人口が減る日本に投資する理由について、劉氏は「日本での学びをアジア圏、世界中に広げたい」と語る。車調査会社カノラマジャパン(東京・練馬)の宮尾健代表取締役は「車先進国の日本で売れれば世界で支持される。登竜門の意味合いがある」とみる。

中国の22年のEV輸出は61万台で、輸出が本格化した20年の8倍になった。BYDは日本車が強い東南アジアやインドなどを攻める。今秋、日本で2千万円超のEVも公開し「適した商品をどんどん拡充する」(東福寺氏)。日本車のEVはまだ少なく、スピード重視のBYDが中長期で日本のEV普及率に影響を与える可能性が出てきた。

身の周りでいろいろな輸入品があふれている中で、自動車はほぼ国産車が独占し続け、輸入車の数は限られてきました。これまでにも、独オペル、韓国現代、米フォードなどが日本市場から撤退しています。メルセデス・ベンツ、BMW、フェラーリなど、私たちが目にする輸入車は欧州の一部のメーカーに限られています。

しかし、世界的には、EVの領域ではBYDがテスラに次ぐ世界2位のメーカーになっています。世界販売で多くの経験値とノウハウを蓄積したBYDが日本市場に進出することで、日本の車市場でのEV化も進み多国籍化が進んでいくかもしれません。

蓋を開けて見なければ結果は分かりませんが、同記事の指摘するように日本市場での販売で成功するかもしれないと考えます。少なくとも、成果を上げるための取り組みを戦略的に行っていると言えると考えます。

日本で商品としての車に関する十分な認知度がある輸入車は、欧州メーカーとテスラぐらいです。日本では、日本メーカーが海外の生産拠点で生産したものは別ですが、従来から日本製>外国製という意識が根強くあります。車などの高額品に関してはなおさらです。

最近は、オンラインに慣れた若手世代を中心に、高級車をオンラインで買う消費者もいますが、あくまでも十分に認知しているメーカーのものではないでしょうか。これまでに聞いたことがなかったメーカーの車を、オンラインのみで何百万円も購入・決済する人はわずかだと思います。一見すると、オンライン主体の販売方式のほうが効率的に思えますが、日本市場ではそれでは難しいという判断は適切だと思えます。

店舗での販売も、現地資本の総代理店に任せている他国と違って、日本では自前でディーラー網をつくるとしていて、日本市場の特徴を踏まえての対応が見てとれます。

同記事によると、「日本の立体駐車場向けに車高を2センチ低くし、ペダル踏み間違いの誤発進を抑えるシステムなど先進機能を全グレードに搭載」という紹介もあります。このあたりにも、日本市場に即した商品の開発の跡が感じられます。

若手世代の消費者は、「よいものはよい」「地球環境と共存を目指している商品を選びたい」などの傾向を持っている人も多いと聞きます。中高年は「輸入車なら欧州ブランド」という意識が根強い面がありますが、若手世代を中心にものがよければメーカーの国籍に関係なく選ばれるかもしれません。BYDを機にEV普及率が高まるという結果も想定されるシナリオだと思います。

いずれにしても、開拓しようとする市場の特徴を踏まえて、他市場とは異なる対応を考えていくという視点は、参考になると思います。

<まとめ>
当該市場の特徴をよく見る。

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