将来不安からの回避願望
6月30日の日経新聞で、「不確実な「見通し」が高める不安」というタイトルの記事が掲載されました。前回、長期的な賃上げ宣言が、従業員の将来不安を和らげる効果があるのではないかと考えました。今回も、同様のテーマで考えてみたいと思います。
同記事の一部を抜粋してみます。
先日、ある企業で採用責任者を務めている経営幹部の方とお話する機会がありました。その中で次のようなことを聞きました。
どのような職業観を持つかは人それぞれで、上記に是非はありません。そのうえで、根底に見えるのは「将来不安から回避したいという願望」です。
この点は、同幹部の方が新卒時代だった頃と変わっていないと考えます。当時は、同じ企業で勤続することのほうが転職や独立などよりも生涯にわたる自身の市場価値を維持しやすく、将来不安から回避する方策だったわけです。今は方策が変わっただけで、不安からの回避願望は同じなのだと思います。
同記事で指摘のある少子化についても同様のことが言えそうです。少子化が始まる前までの昭和時代の日本と、令和の日本とでは、経済の拡張、それに伴う国の財政、自らの賃金の長期的な展望について、描けている度合いの高さが違うと言えます。
そして、このことは日本に限ったことではありません。日本以外の先進国でもほぼ同様に少子化が進んでいて、背景には以前と比べての低成長に伴う将来不安(文化圏によってどれだけ不安に感じるかの程度差はあれ)があると想定されます。
それでも、米国など人口が増えている先進国があります。それは、人口増が多くの移民に支えられているからです。移民にとっては、米国のほうが元いたところよりも自分にとって将来不安が少ないから米国に移り住むわけです。移民が比較的多くの子どもを持とうとするのは、感じている不安(主観としての)が、元からいた人より少ないためかもしれないと説明できます。
あるいは、高福祉国家や少子化対策が効果を上げ、出生率が回復している一部の先進国があります。それらの国では、学費が無料、高齢者となってからの生活が年金等で保障されているなどから、皆が何十%もの高い税金であっても気持ちよく払っているという話を聞くこともあります。このことも、将来不安が軽減しているためと説明できるのではないでしょうか。
何にどの程度将来不安を感じるのかは人それぞれです。そのうえで、その時代環境に置かれた多くの人に共通する要素を把握した上で、将来不安の払拭につながる的確な方針を打ち出すということは、経営・マネジメントを考える上で大切な視点だと思います。
<まとめ>
方針決定にあたっては、将来不安を和らげるという視点をもつ。
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