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腕時計に見る市場の変化

先日、数年間使ってきたブランド物の機械式時計を質屋に売りました。個人的に、さほど機械式時計に執着もなく、スマートウォッチに替えようかなと思っていた矢先、スーパーで質屋の特設コーナーを見つけたので、値段を聞いてそのまま売ってしまった次第です。

多少の迷いもありましたが、片づけコンサルタントこんまりさんの示唆「触ってみて、ときめかなければ手放す」を思い出して触ってみた結果、特にときめかなかったので手放しました。売却金の一部でスマートウォッチを買って使いはじめていますが、まだ機能に親しんでいないため使いきれていない感じです。

また、数ある機能の中でもこれはずっと使わないだろうなと思うものもあります。店舗で選びましたが、予想以上の多くのメーカー・商品がひしめき合っていて、スマートウォッチの中でもどんな機能を持っているものをどう選ぶか、迷うのに十分でした。

さて、スマートウォッチが世に登場してから、一定の時間がたちました。
私は新しいもの、流行りはじめのものに対して、取り入れるのが遅い自覚があります。ものにもよりますが、基本的には、おそらく「アーリーマジョリティ(前期追随層)」か「レイトマジョリティ(後期追随層)」が当てはまると思っています。モノの収集意欲がそれほど高くない自覚があり、(必需品以外の)新しいものを取り入れるのが面倒と感じてしまうからです。

以前の投稿でも取り上げたことがありますが、イノベーター理論というものがあります。アメリカの社会学者、エベレット・M・ロジャース教授によって提唱されたイノベーション普及に関する理論です。イノベーター理論では、新しい商品やサービスが世に出てから広く普及するまでの消費者の購入段階を5つの階層に分類しています。

イノベーター(革新者):革新的で、新しいものを最も早く採用する人。質や利益は二の次で、いち早く新しいものを試そうと飛びつく傾向が強い。全体の2.5%。

アーリーアダプター(初期採用層):流行に敏感で、自ら情報収集を行った上で判断し、新しいものを取り入れる人。オピニオンリーダーとも呼ばれる。イノベーターとの違いは、質や利益を見極めてから取り入れる点。全体の13.5%

アーリーマジョリティ(前期追随層):比較的慎重派だが、新しいものへの関心は高く平均よりは早く取り入れる人。この層に取り入れられると、サービスが一気に市場に浸透することから、ブリッジピープルとも呼ばれる。全体の34%。

レイトマジョリティ(後期追随層):慎重派で、周囲の使用状況を見て、一般的に流行してから取り入れる人。フォロワーズとも呼ばれている。全体の34%。

ラガード(遅滞層):流行に対する関心が薄く最も保守的な人。商品やサービスが一般化して初めて取り入れる、あるいは取り入れないこともある。そのため、基本的にマーケティングのターゲットにはならない。全体の16%。

アーリーマジョリティまで来れば普及率はちょうど50%となります。2人に1人がその商品やサービスを手にしていることになります。(以上、主にマイナビサイト「仕事術」を参照)

スマートウォッチを手にしている人がどれぐらいの割合なのか、道行く人をそれとなく観察してみました(男性と思われる人のみですが)。目視でかつサンプル数はせいぜい100以下ですので正確さには限界ありますが、以下のような結果でした。

・腕時計をしていない:約2割
・クオーツ式・機械式などの従来型:約4割
・スマートウォッチ:約4割

スマートウォッチが4割程度浸透している印象です。若い人、都心部の人ほどスマートウォッチ率が高い感じですが、年配者もスマートウォッチをつけている人が散見されます。上記に当てはめると、やはりアーリーマジョリティに続いてレイトマジョリティが参入してきそうなタイミングで私も参入したという、いつもの購買パターンに今回もはまったという印象です。

腕時計をしていない人が、思ったよりも多いことに気づきました。昔話になりますが、私が学生時代に就職活動を始めた時に、「面接マナーとして、アナログの腕時計をしていくように。デジタルは感心しない。腕時計をしないのは論外。」という、本質的なのかどうか不明のビジネスマナーの説明を受けた覚えがあります。その時に比べると、消費者の価値観が大きく変わっているのが見て取れます。腕時計をしない人がいるのは、言うまでもなくスマホを持ち歩くからです。

検索してみると、スマートウォッチ所有率の調査結果がありました。MMD研究所によると、2021年2月時点で、スマートウォッチの所有率は38.0%で、性別で見ると男性の43.4%、女性の32.6%がスマートウォッチを所有しているそうです。上記私の目視結果とだいたい同じ感じです。

注目すべきは、近年の増加率です。マクロミルによると、2018年11月の記事で所有率は5%とありました。つまりは、(データの出所は違いますが、概要として)約2年半で5%から38%まで増えたことになります。遠くない将来50%を超えるでしょう。複数の時計を併用する人もいると思いますが、少なくとも従来型と逆転するのは時間の問題の勢いです。

同調査によると、スマートウォッチ購入の理由として、「健康管理をしたいから」が最上位でした。使っている機能も歩数計が48.3%で最多になっています。腕時計に何を求めるかの概念が変わったということでしょう。そして、「腕時計をしていない」=「腕時計に必要性や価値を見出さない」層もさらに増えそうです。

以上のことからは、例えば以下のことが想定できそうです。

・機械式などの高級時計は、今後さらに需要減が進む可能性がある。他方で、スマートウォッチとは完全に商品のコンセプト・特徴が異なるため、その点を消費者に訴求すれば今後も一定の市場を維持できる可能性もある。

・スマートウォッチ市場も競争がさらに激化する。機能や商品コンセプトを明確にして訴求しないと、あっという間にレッドオーシャンの中で沈んでしまう。

・最もかじ取りが難しくなるのが、クオーツ式などで数万円の価格帯の従来型。機能や商品コンセプトで何かが明確に訴求できなければ、今後の市場はかなり厳しいのではないか。

・腕時計をしていない層に対して、もし何かを訴求して購買層に引き込むことができれば、相応の需要を確保できそうである。

・社会・消費者による商品に対する認知は、時代が変われば変わっていく。今は必需品でも、将来必需品とは限らない。売り手としては、市場に未来永劫安泰などなく、市場の変化を常につかんでおくことが必要である。

私の場合、スマートウォッチに移行しましたが、機械式もいいかなとまた思い始めています。一生モノの高価な時計を買い、この先何十年も苦楽の時を共に刻んで、臨終の時に「この時計と共に生きてきた」と思える時計を持つのもよいかなと、感じている次第です。スマートウォッチでは、どうしてもその臨場感が出せません(技術が進化して、半永久の動力源が搭載されるなどすれば、話は別かもしれませんが・・・)。

<まとめ>
社会・消費者のニーズ・嗜好の変化に伴って、市場も変化する。


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