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顧客志向・長期的視点で不祥事を減らす

先日まで、日経新聞で「企業の不祥事と倫理」というテーマで連載がありました。企業犯罪や不祥事と企業倫理の関係を、法・経済・心理などから考察した内容です。

1月30日の「企業の不祥事と倫理(9) 信頼への投資が利潤を生む」は、次の内容でした。

企業倫理は健全な市場競争によって支えられます。その点を製品の品質と市場との関係を説明した「クライン=レフラーのモデル」を参考に説明します。

多数の生産者と消費者がいる市場で、高品質の製品を高価格で売る企業Hと、質の低い製品を低価格で売る企業Lがいるとします。消費者は価格を商品の質のシグナルとして利用しますが、商品の情報には非対称性があり、消費者は商品の質を買った後にしか知ることができません。

情報に非対称性があるので、企業Lは消費者をだまして低質品を高品質だと偽って高く売ることができます。ただ、商品の質は取引後には分かるので、その評判は他の消費者にも伝わります。その結果、企業Lは「低品質供給企業」のレッテルが貼られ、二度と高質品を売ることはできません。その後も低質品を低価格で売ることになり超過利潤は得られません。結局、企業Lは消費者を1回だました分だけ得をします。

他方の企業Hも、高質品を高価格で売っていますが、この市場も競争市場なので、やはり超過利潤は得られません。1回だけ低質品を高品質だと偽って売っても、その次からは「低品質供給企業」になり、企業Lと同じです。

企業Hが高質品を高価格で真面目に売り続けるには、消費者を1回だましたことでもうかる以上の超過利潤を、長期的に得られることが必要です。しかし、新規参入が可能な競争市場であれば超過利潤は生まれないはずです。それでは企業Hが高質品を真面目に作り続けるインセンティブとなる超過利潤はどのように生まれるのでしょうか。

東京・銀座にすし店を新規出店しても、店の質がすぐに信頼されることはありません。一方、老舗のすし店なら価格は高くても常連客がついています。

老舗店は、常連客のために席を空けておいたり、粋なサービスというコストを払ったりしてきたからでしょう。長年の投資が、新規参入を阻み、超過利潤の源泉となっているのです。市場競争の中での信頼への投資が企業利潤を維持する。これが企業倫理を支えている仕組みです。

上記には、不祥事に対して私たちがどのように向き合うべきなのか、よい組織文化と、よい文化に根差したよい行動が、不祥事のない適正な組織活動につながるという本質が凝縮されていると感じます。つまりは、顧客志向であること、長期的視点であることです。言い換えると、内向き志向でないこと、短期的視点でないこと、です。

上記記事に関連して、2点考えてみます。ひとつは、不正はいつか必ず顧客に伝わるということです。それも、以前より伝わりやすくなっているということです。

上記記事では「1回だました分だけ得をする」とありますが、見えにくい不正であれば1回だけではなく複数回続くかもしれません。

例えば、以前から時々問題化し指摘されながらもなかなかなくならない、品質不正問題があります。本来守るべき基準に達していない状態であることを認識していながら、意図的にそのまま出荷することなどです。基準を少し下回るぐらいであれば、本来あるべき品質に未達だということに気が付かない顧客も多く、その場合は1回だけでなく継続的に不正が可能になるかもしれません。しかし、何かのきっかけで必ず気が付かれるものです。

また、内部の人材を含め、その問題にかかわっている人が「何かおかしい」と感じたことが広がることで、不正問題として認識されることになります。以前の環境と比べて、SNSなどを含めた情報伝達手段が発達していますので、こうした事象も拡散されやすくなっています。不正はいつか顧客に認識されるという原理原則を改めて認識することが大切で、それに加えて、より早く、より広くそれが実現されるようになっているということも、認識すべきなのだと思います。

もうひとつは、組織文化に根差した不正行動は、理由もなく自然発生的に湧き上がって出てくるものでもないということです。言い換えると、不正行動や、不正行動を促す文化につながる仕組み、あるいは仕組みの欠陥があるということです。

このことに通じるヒントを、2月4日の日経新聞記事「アフリカ、権威主義望まず」に見ることができます。ナイジェリアの鉱業相や世界銀行副総裁を歴任したアフリカ屈指のエコノミストであるオビアゲリ・エゼクウェシリ氏が、次のように語っています。(一部抜粋)

アフリカが伝統的に腐敗しやすいという欧米の議論は間違っている。経済学や社会学の各種の研究を通して判明しているが、汚職は国家の制度が弱く、防止するための制裁が機能しないなど適切に歯止めが働かない場合に生じる。そこにはアフリカに特有の文化的要素はない

非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の調査でも明らかだが、先進国が世界中の途上国の腐敗を助長する影響力を行使してきたことは否めない。実のところ、腐敗には供給側と需要側があり、先進国の多くの国がアフリカの腐敗行為に関与して利益を得てきた

(腐敗構造の中にある)政治の指導力の方向転換が欠かせない。現状を変えられるという確信も必要になる。例えば建国前のシンガポールは汚職がまん延していたが、現在は世界で最もクリーンな国の一つとなった

「構造的に汚職が起こる機会を減らし、摘発し、判決を下すシステムも不可欠だ。先進国側と、近代国家のシステムが脆弱なために多くの汚職が起きている途上国側のリーダーが、腐敗を減らすために協力しなければならない

「あの会社では不正が起こる。そういう会社だ」というのは、表面的な事象をとらえた言い方としては合っているかもしれませんが、本質ではないということです。それを起こさせる仕組みや仕組みの欠陥が問題の真の要因ということです。

そして、どんな組織であっても、時間の経過とともに仕組みが劣化していないかを振り返る必要があると思います。

同時に、上記記事が示唆するように、内向き志向・短期的視点の現状から、顧客志向・長期的視点で仕組みの整備・運用によって、不正のない状態へと変えられるという認識も大切なのだと思います。

<まとめ>
顧客志向・長期的視点で、組織活動に必要な仕組みをつくる


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