「蝉ばさみ、買っちゃった」
　と妻が言った。
「なに、蝉ばさみって」
「洗濯ばさみの一種なんだけどね、自動的に洗濯物を留めてくれるの」
「うそ」
「実際にやってみようか」
　妻は洗濯機からタオルやバスタイオル、敷物などを取り出すと、ベランダの物干し竿にかけた。
　すると、カゴからのそのそと蝉ばさみが出てきて、まるで木に留まるように、バスタオルの端と端にくっついたのだった。
「ね、便利でしょ」
「すごいな、これは」
「風でハンガーがずれないように、ハンガーを固定する機能もあるんだよ」
「とるときはどうするんだい」
「日が暮れると、自動的にカゴに戻る」
「へええ」
　一週間後。
「あー」
　と妻が叫んだ。
「洗濯物が吹き飛ばされている。あなた、拾ってきて」
「いいけど、蝉ばさみはどうなったんだ」
「下をみて」
　たくさんの蝉ばさみがベランダの床に転がっている。
「一週間でバッテリーが切れるの、忘れてたー」
　蝉は蝉なのであった。

（了）

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