引っ越しを終えて一週間。新しい洗濯機が届き、
「あ、洗濯ばさみがない」
　と気づいた。
　近くのホームセンターに行くと、「はたらきもの」というオリジナルブランドが並んでいた。20個入りの洗濯ばさみを買った。灰色、赤、黄色、緑、青がそれぞれ四個ずつ。カラフルでよろしい。
　一緒に買ってきたプラスチックの箱にざらざらと入れ、ベランダの台の上に置いた。
　その夜のことである。
「あいた」
　指が痛くて目が覚めた。右手を布団から出すと、赤い洗濯ばさみが人差し指を挟んでいる。
「おい。なんだいったい」
　私は洗濯ばさみを元の場所に戻し、二度寝した。
　次の夜、身体中の痛みで目が覚めた。
　指先、髪の毛、鼻、耳。唇にまで洗濯ばさみがくっついている。
　ただごとではないと思い、袋の説明を読んだ。
「はたらきものは、とてもよくはたらきます。仕事がないときはじぶんで仕事をつくります」
　私の指を挟むのが仕事か？　迷惑だ。この甘えん坊の洗濯ばさみども、どうしてくれよう。
　私は部屋の中に洗濯紐を渡し、三枚の濡れタオルをかけた。
　翌朝、タオルにはびっしりと洗濯ばさみが挟まっていた。仕事があると、そちらを優先するようだ。
　ホームセンターには「はたらきもの」のマグカップや塗り箸やフライパンなどが揃っていたが、買わなくてよかった。このシリーズの商品はたしかに働き者だが、それ以上にさみしがりが過ぎる。

（了）

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