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【ショートショート】最後の博覧会

 お祭り男として知られる平岡平蔵は、連続八回当選を誇る国会議員である。
 国会で日本博覧会開催を提案し、ボコボコに叩かれた。
 賛成する者は誰もなく、ただちに否決された。このときの悪印象のせいか、次の総選挙では落選した。
 平岡は地盤に戻り、性懲りもなく地方博覧会を企画したが、これも住民の反対運動により挫折。
 ついに行くところがなくなり、数十年ぶりに故郷の寒村に戻った。過疎の村である。
「よー、平岡じゃないかー」
「ひさしぶりだなー」
 村のひとびとは農作業の合間に声をかけてくれた。
 夜は歓迎会。
 平岡が博覧会を開きたいと訴えると、村人は真剣に話を聞いてくれた。
「しかし、博覧会ってなんじゃい」
 村人で、博覧会を目にした者はいなかった。
「資料や物品を展示して、見に来てもらうんだ」
「資料や物品なあ」
「庄屋の蔵にいろいろあるじゃろ」
 ほかの村にも協力を呼びかけたが、どこからも返事はなかった。
 しかし、平岡はくじけない。
 七月のある晴れた日曜日、小里村博覧会が開催された。
 小里村への交通手段は車以外、ないに等しい。
 最寄りのJR駅からは朝夕二本のバスが出ているだけだ。
 朝のバスで小学生が三人やってきた。夏休みの自由研究にするそうだ。彼らは巻物やら昔の農機具やら着物やらわらじやらをスマホで撮影し、村人の用意したおにぎりとトン汁を食べ帰っていった。
 これが日本で最後の博覧会となった。

(了)

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