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長期経営計画のすすめ Ⅱ.企業戦略_5. 成長市場を調査する



1.市場動向を把握してる?

「機会を捉えて自社を成長させる」企業経営にとってこの当たり前と思われる取り組みが、私はビジネス現場において意外に実践されていないと思っています。

年度予算策定のタイミングで、市場動向を調査せずに昨対ベースだけで予算の妥当性を検討している会社が意外に多いと感じています。市場が伸びている時はそれでも辻褄が合うかもしれませんが、市場が停滞すると競合との価格競争が激しくなり、現場の努力が足りないと社員を追い込み、予算が達成できずに事業が衰退していきます。

また中小企業の場合は、市場規模●兆円、今後のCAGR(年平均成長率)は●%という市場動向は、「自社の売上自体が大きくないのであまり関係無い」と思っている経営者が多いと思われます。しかし、その考え方は逆であり、市場が衰退して行く時は競合との競争は激化し、得意先の交渉力は高まります。大企業は資本力でその競争に勝ち残ろうとするために、中小企業が先にダメージを受けます。よって中小企業こそ常に市場動向を意識し、小回りを生かして、成長市場を渡り歩くことが必要です。

「 Ⅱ.企業戦略_4. メガトレンドを調査する 」においてメガトレンドを確認しました。メガトレンドとは大きな社会の変化であり、それ自体が大きな市場を生むということではなく、それに影響を受けた市場が成長したり、衰退したり、また新たな市場を生むなどの現象を引き起こします。私はSDGs、AI、人口動態の3つのメガトレンドに関心を寄せています。この3つはそれぞれが独立したものではなく、多くの部分でつながっており、それによって更に大きな変化を起こし、成長市場を創ると考えています。その中で注目している2つの成長市場を紹介します。


2.注目する成長市場は?

1つ目の注目する成長市場はヘルスケア市場です。

SDGsの17のゴールの1つに、『 3. すべての人に健康と福祉を 』というゴールがあります。健康や福祉と人口動態は密接に関わっており、人口は増加しているが医療が発達していない国では、妊婦や新生児の死亡率が高い傾向があり、SDGsのターゲット3.1や3.2で具体的に改善すべき数値目標が掲げられています。その改善策としてAIは、診断の精度の向上や創薬の進歩に活用することができます。また日本のような人口が減少していく国では高齢者の割合が増加する中で、健康で長く生きるための病気予知や見守りサービスなどにAIは活用できます。

ヘルスケアはSDGsのゴールの1つと関係性が強く、人口動態にてその影響が予測でき、課題解決としてAIが有効に活用できる市場です。世界においても、日本においても更なる市場拡大が期待できます。


2つ目の注目する成長市場はエネルギー市場です。

SDGsに、『 7.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに』また『13.気候変動に具体的な対策を』というゴールがあります。世界には電力を使えない人が7億人以上いるという報告があります。また気候変動が激しくなる中で、再生可能エネルギーの割合を増やすことがSDGsのターゲットとして明記されています。エネルギーの消費量と人口動態は関連しており、人口が多い国や増加する国は積極的に再生可能エネルギーに取り組む必要があります。その解決策としてAIは、風力発電や太陽光発電などの出力予測、また発電施設の最適な運用や送電網の効率化に役立てることができます。また新たなエネルギー源の開発、企業や地域単位でのエネルギー政策のシミュレーションにも活用できるでしょう。

エネルギーはSDGsのゴールの2つと関係性が強く、人口動態にも関わってきます。そして、課題解決としてAIが有効に活用できる市場であり、こちらも世界においても、日本においても更なる市場拡大が期待できます。


3.成長市場の調査とは?

注目する2つの成長市場を紹介しました。長期経営計画においては、その機会をどのように捉えていくかを考えなくてはいけません。そのためには成長市場の中身をより深く調査していく必要があります。ヘルスケアを例に説明していきます。

ヘルスケア市場の中には、主に治療に携わる病院や診療所、歯科診療所などの医療施設に関わる市場があり、その施設で使用される薬や医療機器に関わる市場があります。治療の前には予防があり、健康診断サービスやジム施設に関わる市場、日常の健康を維持・管理するサプリメントやウェラブル端末に関わる市場があります。治療の後には介護があり、介護サービスや有料老人ホームなどの施設に関わる市場があります。生命保険市場やドラッグストア市場もヘルスケア市場と捉えてもいいでしょう。ヘルスケア市場の中に様々な市場があり、それぞれの市場規模や成長性を調査していくことが必要です。

今は調査のフェーズですので、すぐに自社の強みを活かせる市場を探さずに、手間は掛かりますが、幅広く調査することをお勧めします。私は前職ではヘルスケア市場で長くビジネスを実施していましたが、毎年の経営計画のローリングの際には幅広く調査するようにしており、その都度、『この市場以外に伸びているなぁー』という気づきがありました。

これまで関わったことの無い成長市場を調査するには、一通り書籍やネット等で調査した上で、最近はスポット系のコンサルティングサービスがありますので、そのサービスを活用し、その市場の従事者や経験者にヒアリングすることが良いと思います。その市場で仕事した人しか分からない、言葉にしにくい感覚的な市場特性があるので、複数人から聞いて情報収集するのが良いと思います。

今回は以上となります。次回は「6. 全社業績を分析する」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略
1. MVVを振り返る         
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する    ←今回
6. 全社業績を分析する     ←次回

7. 今後のMVVを決める
8. 企業ドメインを決める
9. 目指す事業ポートフォリオを決める
10. 成長戦略を決める
11. 新規事業・M&A戦略を決める
12. 一次業績計画を策定する
13. 一次投資枠を設定する
14. 全社一次要員計画を策定する
15. TOPマネジメントを決定する
16. 企業戦略を事業戦略に展開する
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅲ 事業戦略
1. 過去の事業業績を分析する
2. 現在の製品ポートフォリオを可視化する
3. 外部環境を分析する
4. 企業戦略を理解する
5. ミッション・バリューの見直しを検討する
6. 事業ドメインを決める
7. 目指す製品ポートフォリオを決める
8. 成長戦略を決める
9. 売上計画を精緻化する
10. 要員計画を精緻化する
11. 投資計画を精緻化する
12. 損益計画を精緻化する
13. ロードマップ・KPIを決める
14. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 計画完成
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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