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工場と倉庫と郊外と宇宙人─『散歩する侵略者』

「数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。
夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?
その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。
「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。」
公式サイトより


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黒沢清監督の最新作.いやー面白かった.
黒沢清好きなら満足するはず.ウルトラポップな『CURE』と『回路』,どこにも行けない郊外感(世界がそこで完結している)の息苦しさが『ニンゲン合格』や『トウキョウソナタ』.「最高の娯楽作品をつくりたい」と語る監督の唐突なアクション要素が『リアル』を思い出させる.全部の要素が入りながらダレることなく楽しめた.
ある意味クサいラストもらしさがあってよかった.

『散歩する侵略者』というタイトルとは裏腹に一家惨殺の血だまりのシーンから始まる映画(またいい感じの住宅が!幹線道路沿いにポツンと建つ住宅の画がかっこいい).
そこからポップな音楽と迫力ある画のタイトルコールで唸った.これは面白いぞ!と.

松田龍平や長澤まさみ,長谷川博己の演技の上手さは当然ながら,「侵略者」を演じた高杉真宙や恒松祐里がよかった.また,ちょい役だったけど満島真之介の存在感がよかった!

「概念」を奪うという設定の「侵略者」なのだが,その奪い方がひたすらその奪う概念について問いかけるというもの.
これは『CURE』間宮の「あんたは誰?」という問いかけを思い出した.
当たり前だと思っていたことを改めて追求される,そのことによってその本質があぶり出される.
『CURE』も本作もそんな「気づき」の映画であった.

そしてやっぱり黒沢監督と言えばカメラワークとカットのかっこよさ!本作も十二分によかった.
『クリーピー』の時も改めて思ったけど,よくこんな良い感じの住宅地見つけてくるなぁ〜と.何かの廃工場に,廃れた自動車修理工場,どこか茫漠としたショッピングモールの駐車場に閑散とした夜の商店街,特に桜井が逃走中にバンを止めていた高架下(?)のような空間がかっこよかった.また,主人公たちの家も変な間取りで,あれもセットでつくったのだろうか?
登場人物たちが見ている先を明け透けに撮らないようにして,スーッと徐々にその視線の先へスライドしていくあのカメラワーク,本当に気持ち良い.

また観たい映画でした.

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