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そのアンケート結果、信じて大丈夫?~銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書~

銀行のマーケティングと営業企画について、実務的に学んでいく本シリーズ。
今日は、アンケート結果を分析する基本的な視点について、後輩(銀行員)の花咲さんと学んでいきます。

今回は、具体例として、金融庁が実施した「企業アンケート調査」をとりあげます。
結論から申し上げると、一部のアンケート結果は、そのまま信じちゃダメー!

▼調査結果の詳細をご覧になりたい方はこちら

https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/230628/01.pdf


こんな分析していませんか?

尼田:「花咲さん、このアンケートからどんなことが言えるかな?」

企業アンケート調査(金融庁、23年6月28日)

花咲:「はい、多くの企業が『人材の確保・育成』に課題を抱えていますね。」
尼田:「そうだね、2024年問題もあって、中小企業の人材不足は拍車がかかっているね」

尼田:「では、こちらの左のアンケート結果からは、何がわかるかな?」

企業アンケート調査(金融庁、23年6月28日)

花咲:「特に、『医療・福祉業』や『観光業』で経営人材が不足しているようですね。こうした企業をターゲティングして、当社の人材紹介サービスを案内してみてはどうでしょうか?」
尼田:「それ、本当に正しい?」
花咲:「えっ、どういうことですか??」

問題点はどこでしょう?

尼田:「答えを言っちゃうけど、回答数を確認してみよう。(n=XX)って数字があるでしょ。これは、それぞれの回答数を示してるんだ。『医療・福祉業』は78社『観光業』は34社しか回答していないよね。」
花咲:「確かに回答数は少ないですね。」
尼田:「そうなんだ。実は、アンケートには信頼できる回答数に目安があるんだよ。今日はその目安について学んでみよう。」
花咲:「私、文系ですけど、理解できますか?」
尼田:「あのー、僕も完全に文系ですけど・・・」

信じてよい回答数(サンプルサイズ)は400が目安!

尼田:「覚えておきたいのは、ずばり400って数字だけだよ。」
花咲:「えっ!それだけでいいんですか?」
尼田:「そうそう、回答数が400集まると、実際の数字が上下5%以内に収まる確率が95%。つまり、ほぼほぼ信頼していい数字ってことになるよ。」「逆に、回答数が40しかないと、実際の数字が上下10%以内に収まる確率は80%。信頼度は大きく下がってしまうんだ。」
花咲:「つまり、先ほどの『観光業』のデータだと、実際のデータは22.4%~42.4%の可能性が高いけど、それ以上、それ以下の確立も20%あるってことですね。」
尼田:「さすが、花咲さん!のみ込みが早い。」

もう少し詳しく解説します!

企画1年生のみなさんは、ここまでの理解でよいでしょう。
興味のある方は、もう少し詳しく見ていきましょう。

母集団の大きさ別必要なサンプルサイズ

①「母集団」を確認

「母集団」というのは、今回調査したい全体の数のことを言います。
例えば、Aという商品を利用している人が全体で1,000人いる場合、「母集団」は1,000人です。
では、この人達を対象にアンケートを行う場合も、400もの回答を集めないと、信頼できないのでしょうか?

「母集団」が小さければ、必要な回答数も少し減らせるというのが答えになります(詳細後述)。

②「誤差」の範囲

十分な回答数がないと、全く評価できないのかというと、そうではありません。
今回「±5%の誤差」を基準にお話ししましたが、ざっくり傾向がわかればよいというような場合は、「±10%の誤差」で考える方法もあります。
「±10%の誤差」を許容できれば、必要な回答数は大幅に減らすことができます。
一方、もっと厳密に調査したいという場合は、「±3%の誤差」を基準とすればよいでしょう。
アンケートの目的に合わせて、回答数を集めることが大切です。

尚、許容する誤差を計算するには、こちらのツールが便利です。

「有意な差(有意差)」とは?

言葉の通り、統計的に意味のある差のことを言います。
例えば、27歳の男性400人、同女性400人にアンケートをとったとします。
その結果、男性は23%、女性は33%が既婚と回答しました。
この結果から、「27歳の人は男性より女性の方が既婚率が高い」と言えるでしょうか?
男女ともに400人の回答を集めていますので、±5%の誤差の範囲内入る確率が95%でしたね。したがって、この統計は「有意差がある」と評価できます。

おわりに

いかがでしたか?回答数が400に満たない場合、「ちょっと疑ってみる」というのが企画マンのあるべき姿です。
今回事例に挙げた金融庁のアンケート、実は銀行別の結果が、それぞれの銀行に開示されています。
行員の一部は、毎年この結果を見て一喜一憂しているようですが、実は回答数は100にも満たず、過去の数字と厳密に比較する意味はあまりないと言えます。
アンケート結果を見るときは、まず回答数を確認するという習慣を身につけましょう。

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