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養豚術の呪い 1

ケース1

夫の呪いは見破ることできますか?

いつからだろう。
容姿を気にならなくなったのは
おばさんぽくならないように
綺麗なママを目指さないと
そんな日々は、はるか遠いような気がした。
40を過ぎてから、さらに体型が大きくなった気もするが、自粛もあいまって、食べる事とアニメや映画は、年頃の娘と一緒になって楽しめている。そう自分に言い聞かせては、鏡の前で少しため息をつく結子がいた。

娘の杏奈は、呪術廻戦が見られるとあって朝からウキウキしていた。
「もう、早くいこうよ。限定グッズ売り切れちゃうよ」
「ちょっと待って、後5分」
そこで、夫の大樹がチャチャを入れる
「そんなに化粧しても変わらないよ。元がもとだから」

一気にテンションが下がる一言を言ってくるのだ。もう少し他に言いようがないのか。
お前のせいで、こんな姿になったのではないか。
そう思うと余計に鏡を見るのさえ嫌になり、化粧も適当に済ませ、杏奈の後を追いかけにいく。

「今日夕飯は?」

イライラを上乗せするような言葉だ。映画を見に行くのだから、食べに行ってくれば?とか、
作っておくよとか、言えないのだろうか。
結子はそんな怒りをこらえ、

「自分で勝手に食べてて」 
「えっ、何かテイクアウトでも買ってきてよ」

娘の杏奈がつかさず
「じゃあ、お父さんも映画見ようよ。面白いよ!
それで、帰りにご飯食べに行けばよくない?!」
そんな娘の言葉に、少し照れ臭そうにしながら、

「杏奈がそう言うなら、そうしようかな」

男は単純だ。娘は、父親のお金についてきてもらいたいのだから。案の定、杏奈は大樹に呪術廻戦の説明をしながら、グッズのおねだりに成功している。しかも、裏で私にピースをして、私の分まで買ってくれたらしい。
年頃の娘に嫌われるよりましなのか、大樹もまんざらではない様子だった。
きっと私がねだったら、2秒で瞬殺だろうな。
馬鹿にされておしまい。結子は、そんな事を思いながら、仲睦まじい親子を遠くで眺めていた。

杏奈は、子供に戻ったような顔つきで、二人の手を引っ張ってシアターに入っていった。

言霊

呪術廻戦を見ながら、ふと結子は思った。
言葉は、魔法にもなれば呪いにもなる。
結婚して杏奈を産んでからの15年、綺麗だねと言われた記憶はない、代わりに大樹から浴びせられた言葉の数々は、酷いもんだった。

色気無いな
くびれが無いな
太ったな
老けたな
孫にも衣装
化粧しても無駄無駄

15年間の呪いの言葉が今の有様だ。
でも、そうとは気づかず、それは自分のせいで、自分がダイエットが続かないダメな自分だと、さらに暗示をかけていたのだ。

映画を観に行った後、久しぶりに3人で食事をした。

大樹は、ビールをオーダーした。
つかさず結子もビールを頼むと夫は怪訝な表情をし、店員が去るとつかさず、
「太るよ」
と言ったのだ。
このひと言が呪いの言葉になり、結子に暗示をかけているように思えた。

結子は、映画のシーンのように大樹に向かって、
ひどい言葉を吐きたかったが、少し考え、結子がぼそっと呟いた。

「シャケ」

これは、呪術廻戦の狗巻棘が言葉に呪力が込められるために、普通の会話はおにぎりの具しか言わないのだか、それを結子が利用したのだ。
その反応に杏奈は大ウケしていた。
「お母さん最高」
「すぐ影響して、子供みたいに」
と、すぐさま大樹は不機嫌そうに言った。
「お父さん、お母さんが本当は何を言いたかったかわかる?想像つく?お父さんも、呪われないように」
杏奈は私も学校でむかつく言葉を吐きたいときに使おうかなと言って、一人ケラケラと笑っていた。大樹は、やっと事の意味がわかり、ちょっと居心地が悪そうだった。

その後、大樹がデリカシーのない言葉や、人の容姿をけなしくると、結子はおにぎりの具しか言わなくなり、大樹を困らせた。そのうち、大樹も観念したのか、すぐ違う話題にしたり、極力言わなくなって言った。

今後も呪いの言葉は効かない、その決心が効いたのか、鏡の前の自分に、綺麗だと言ったのが効いたのか、久々にウエスト回りがゆるくなったような気がしてきた。

きっかけは、呪術廻戦できづいたが、きっと自分の他にも、養豚の術の呪いをかけられているのかもしれない。それが人によっては、浮気や不倫で呪いを解消しようとしている人もなかにはいるかもしれないとふと思った。

そんな時、友人の裕美からLINEがきた。
まさに、婚外恋愛中の友達からだった。


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