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気まぐれな短編小説

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短編小説を執筆して公開しています。全て、1話完結です。
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【短編小説】 終わりかけの味

【短編小説】 終わりかけの味

恋人の誕生日当日に、胃を痛めた。 

家で何か豪華な料理でも作ってお祝いしようかと目論んでいたのだが、外は雨が降っているし、今日は土曜日で久しぶりの休みだ。ゆっくり寝ていたい気分だった。

「申し訳ないけれど、今夜の夕飯は何か買ってきてもらえないかな」と彼に断りを入れ、私は一日中ベッドで横になり天井を見つめて過ごしていた。

夜になると、恋人が仕事から帰宅した。
無添加がウリの惣菜屋のおかずを電子

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【短編小説】 最初の男

【短編小説】 最初の男

なんだか、魚みたいな顔をした男だ。

南は、サークルの新歓コンパでその男に初めて会った時、率直にそう思った。どちらかといえば顔のパーツが中心に向かっている南は、離れ気味の目を持つその男の顔を見続けると、自分の焦点が合わなくなる不思議な感覚に陥っていた。なんだかクラクラと目眩がしてくる。あるいは、飲み慣れない酒のせいだったかもしれない。

その年の春から東京の大学に進学した南は、新入生へのサークルの

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