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青春の残像に逢えたら/『ここは退屈迎えに来て』感想

橋本愛、門脇麦、成田凌らが共演。
若者たちの青春と、その残像を追った映画『ここは退屈迎えに来て』の感想です。

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東京で挫折を経験したり、地元に残ったまま空虚な日々を過ごしたりと、くすぶっていた男女が20代も終わりにさしかかった頃に再会した。

彼女たちが青春の先に見たものは思い出の続きだったのか、それともー

制服姿が眩しすぎる女優・橋本愛


ここ何年もの間、僕の中で一番出演作品を観たくなる女優、門脇麦。

そんな彼女に匹敵する女優がいる。

橋本愛である。

橋本愛もむかしから大好きな女優の一人で、写真集も持っているぐらいだ。そんな若手実力派女優最強クラスの2人が共演した本作は、公開前からずっと楽しみにしていた。

実際、とても好きな作品だった。

飛び抜けたインパクトを残す内容ではない。安直に感動を誘うストーリーでもない。

ただ誰しもにある心の傷や青臭い記憶を引きずり出して感傷に浸らせる。その感傷は切なくもあるが、同時にどこか清々しく、新しい一歩を予感させるものだ。登場人物たちがその感傷を仮託するにふさわしく見えるのは、役者のお芝居が良いからだろう。

橋本愛はなんだか大人っぽくなっていた。

彼女は強い役も弱い役もどちらも器用に演じられるし、本作のような際立った個性を持たない普通の役でも存在感が出せる。目だけで感情の揺れ動きを表現できる女優で、やせ我慢をして耐える表情なんかをさせたら天下一品なのである。

その橋本愛、映画の中で高校時代のシーンがあり、自らが演じている。

いや、さすがに彼女の美貌を持ってしても制服はもうキツいでしょ、コスプレにしか見えなくて浮くでしょ、なんて思っていたら、とんでもない。

全然アリ寄りのアリでただの女神だった。

当時の流行を背景にしたミニスカート+ルーズソックスを、皇族と見まがうほど上品に着こなしていた。どう考えても校内、いや北陸全土(映画の舞台は富山県)にその名が轟いているレベルの美少女だろという意味では浮いている。違和感はゼロだ。

そろそろ見納めかもしれない彼女の制服姿を拝めるだけで映画のチケット代と上映時間を捧げる価値がある。

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また若干ではあるが、『桐島、部活辞めるってよ』を彷彿とさせるこの作品。

やはり橋本愛はスクールカースト上位とも釣り合う存在でありながら、サブカルや非リアからも憧憬の眼差しを向けられる存在として圧倒的な説得力を誇る。

例えば広瀬すずなら見向きもしてくれなさそうでも、橋本愛ならサブカルやオタクの世界にも理解があり、同じ目線に立って会話を交わしてくれる…そんな期待を担保してくれる雰囲気が彼女にはある。

それにしても、橋本愛の造形美を再確認させられたなあ。ファンなら間違いなく観るに値する。

ベッドシーンを求められる女優・門脇麦

門脇麦がついに橋本愛と競演!
と思いきや、なんと2人のシーンがひとつも無かった。

まだスクリーンでの夢のツーショットはお預けということらしい。

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門脇麦といえば、ほぼ100%ベッドシーンがある女優だが、この映画でも御多分に漏れずだった。もはや水戸黄門における由美かおるの入浴シーンぐらいお約束となっている。

ベッドシーンの場慣れ感もさることながら、煙草を吸う姿がとても様になる点も見逃せない。少しやさぐれた女性を演じさせたら若手女優でも屈指だと思う。

いけ好かない俳優・成田凌

成田凌は個人的にはいけ好かない俳優だ。

特に理由もなく、「なんかキライ」としか言えないので乱暴な話である。

しかし、本作ではその「いけ好かない」感じが絶妙に役に活きていて、彼以外に適任者はいないんじゃないかと思うほどだ。

小器用で何でもこなせて女子にもモテる。モテることに自覚的でありながら悪気はない。知らずに誰かを傷つけていることに気付かないまま奔放に生きている今回の椎名という役は、彼の強みを知らしめるような当たり役ではないだろうか。

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フジファブリックが染みる

他に気になった女優は片山友希。マキタスポーツ演じるオッさんと援交してる女子高生をリアリティを持って演じている。そのうち朝ドラのヒロインにでも抜擢されそうな透明感を持っていて、彼女を主人公としてもう一つ映画が出来そうな魅力を発揮していた。まだキャリアは浅いようだが、今後注目したい。

フリーカメラマンとして橋本愛の相棒を務めた村上淳の安心感と、冴えない男子を演じる天才・渡辺大知の存在も映画を盛り上げている。

村上淳や渋川清彦って出てくれているだけで作品の質が上がるよね。

今回、映画の劇中歌としてフジファブリックの『茜色の夕日』が使用されている。2005年にリリースされたシングルで、『若者のすべて』と並びバンドを代表する名曲である。

僕も大学時代に数え切れないほど聴いた思い出の曲だ。

かつては奥田民生、最近は菅田将暉がカバーしたことでも知られ、俳優の妻夫木聡もメディアで大好きな曲の一つとして挙げていた。

そんな名曲をメインのキャストたちが感傷に浸りながら歌い継ぐようなシーンがある。この曲に思い入れがある人なら涙腺にくるかもしれない。

明け方、ラブホから1人で帰る門脇麦が唄いながら田舎道を歩くところも、渡辺大知が嗚咽しながらスクーターに乗ったまま熱唱する場面も最高だった。

この映画には好きなシーンがたくさんある。

椎名と再会して何とも言えない表情をした私(橋本愛)がカメラのシャッターを切られるシーン。

抜けるような青空の下、プールにみんなで飛び込んで水を掛け合うシーン。


若者の群像劇ってだけで好きなのに、さらに好きな役者まで出ていたら贔屓にしたくもなる。青春を回顧する主人公たちと同世代というのもあるかな。他の人が見たらどんな感想を持つのか分からないけれど、僕は大好きな映画のひとつになった。

思い出はもう手の届かない場所にあるからこそ美しい輪郭を保つのかもしれない。過ぎた時間は平等に美化を促すとも限らない。

誰かにとっての青春にもトラウマにもなれなかった私たち。

遠くないうちに青春の手触りすら忘れる日が来るだろう。いつか茜色の夕日を眺めても、思い出せたはずの景色すら遠ざかって。

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サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います