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期待は超えない/『るろうに剣心 最終章 The Final』感想

※ネタバレあり

うーん、原作の要素をどこまで取捨選択すべきか難しかったと思う。2時間という時間的制約もふまえれば、この抽出の仕方が限界だったのかもしれない。

いわゆる人誅編と追憶編。これを最終章2部でどう分けて見せるのかは注目だった。結果的に前後半ではなく、裏と表という構成にして、まずはしっかり2時間で縁(新田真剣佑)との死闘をまとめたのは良かったと思う。

原作の追憶編にあたる雪代巴(有村架純)との馴れ初めや、剣心(佐藤健)が彼女を斬るに至った経緯があまりに駆け足で戸惑ったが、その全貌を見せるのはあくまで「裏」にあたる次回作ってわけだ。正直、次の「Beginning」まで見てみないことには良し悪しは言いづらい。

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ただ、あえていうなら原作漫画を読んでいない人が見た時に、どこまで内容を汲み取れるのか、世界観に入り込めるのかは疑問である。初見の人に優しい説明は一切ない。

原作ファンの僕からしてみても、例えば縁の特異体質「狂経脈」は取り入れてほしかった。上海で死線をくぐってきたとはいえ、縁がなぜあそこまで強いのか劇中では裏付けが乏しいからだ。

幹部に相当する同志たちも見た目の奇怪さのみでキャラが立っていない(原作ではちゃんとキャラ立ちしてるし、剣心との因縁も分かりやすい)。物語に引き込むには縁の魅力は非常に重要だったのに、そのわりには個性や強さが分かりづらい。

序盤に斎藤一(江口洋介)と対峙した列車のシーンで身体能力の高さは見せつけたものの、倭刀術の特徴や、精神が肉体を凌駕した特異体質、さらに強い怨嗟による異常なタフさなど、もう少し言及して欲しかった。技の名前も漫画と違って出てこないのだから尚更だ。その点が描写されていれば、キャラクターとしての厚みや敵対したときの絶望感は増したはず。

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追憶編と切り離した弊害もあり、余計に縁というキャラクターの魅力が伝わり切らなかったのは惜しい。真剣佑は原作のイメージに比べてゴツいが、上腕二頭筋や胸板の厚さは十分な見応えと迫力を備えており、縁の強さを己の肉体を持って説得力を持たせた点は素晴らしい。

十本刀・張の中途半端な役回り、見ていてイライラする弥彦の情けなさと存在感の無さ、煙草を吸うばかりで大した見せ場のなかった斎藤一…物足りなかったパートは挙げればキリがない。

左之助(青木崇高)も縁の同志の一人ぐらい倒すのかと思いきや、その戦闘には間に合わず、結果的に縁にボコボコにされるだけの残念な立場で終わった。

原作ではフェイクの死体を使ったトリックにより、薫(武井咲)が殺されたとされる驚愕の場面がある。これにより剣心が追い込まれたり、蒼紫(伊勢谷友介)に見せ場が出来たりと展開に深みが出るのだが、こちらも時間の関係からか割愛されていた。

そんなこんなで残念な展開、物足りない設定が非常に多い本作において、胸熱だった場面もあるのでそこはちゃんとフォローしておきたい。

演じた人が色々あった蒼紫の登場と、原作をいい意味で裏切った剣心と瀬田宗次郎(神木隆之介)の共闘である。

蒼紫はなんだかんだでかっこよく、登場しただけでワクワクする。

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そしてバクマンコンビでも知られる佐藤健×神木隆之介=剣心と瀬田宗次郎の共闘は、原作にもなかった夢のコラボレーション。予告でも瀬田宗次郎が出てくることは伏せられており、この人気キャラのサプライズ登場には素直にテンション上がった。剣心と2人による戦闘は、劇中屈指のハイライトとなっている。

また操を演じた土屋太鳳も、第1作目出演当時よりすっかり主演級の人気女優となったからか、今回は蒼紫のお株を奪う見せ場があった。もともとアクションに長けた女優なだけあり、たくましい大立ち回りを見せつけ、金星をあげる活躍だった。

この瀬田宗次郎と操の活躍によって斎藤一、蒼紫、左之助ら、本来の主力キャラの見せ場が奪われてしまったのは複雑な心境だが。

原作ファンにとっても原作未読者にとっても中途半端な作品になってしまっている、というのが総じた感想だ。とはいえアクションシーンは日本映画の最先端をいった迫力で圧巻だし、有村架純演じる雪代巴の儚い美しさも一見の価値がある。

一定のクオリティを担保したエンタメとしては十分に楽しめるレベルなのは間違いない。次回作「Beginning」がとてつもない傑作となっている可能性も結構ありえそうなのでそちらを楽しみにしたい。

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サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います