わた雲屋
僕と妹は
今日もお留守番
絵本を読んでた妹が
「お母さんは~?」といって泣き出した
困った僕
ママごと人形もダメ
クマのぬいぐるみもダメ
とっておきのプリンもダメ
どうしよう……
そうだ!
あそこに行けば!
妹の手をひいて表に出る
近くの神社
虹色ブランコ
ふたりで乗ってる虹色ブランコ
うつむく妹の手をひいて
神社へ向かって歩き出す
角をふたつ曲がったら
ブランコがあるいつもの神社
ひとつ
ちょうど歩道の端っこ
綿毛がユラユラ揺れていた
僕は妹の目の前で
ふ~~っと長い息を吐く
風に舞った綿帽子
目もくれずに歩く妹
ふたつ
ようやく
いつもの神社
いつもとと様子が違ってる
馴染みの神社に
見慣れぬ屋台
看板には
わた雲屋?
フワフワ綿あめ弾んでる
ユラユラ綿あめ揺れている
それに気がつき妹が
興味ありげに顔あげる
店には2台の綿あめ機
ひとつは大きく
ひとつは小さく
そこには2人の店員さん
ひとりは大きい
ひとりは小さい
「いらっしゃい」
「いらはい」
ふたりが声をかけてくる
妹に買ってあげたくて
ポッケにそっと手を入れた
100円
「これしかなくて…」
100円をそっと前に出す
「できるよ」
「できるで」
大きい人がメニューをくれる
「どれが好きだい?」
「好きなのえらび」
カラフルキラキラにぎやかメニュー
それを眺める妹は
少し元気になったみたい
「これ」
妹は大好きな虹を
「そっちは?」
僕もあわててメニューを見る
「これください」
僕も大好きな亀えらぶ
「虹いっちょう!」
「亀いっちょう!」
店の外につるされた
綿あめ袋を手に取って
釜の中へ放り込む
「これは雲のもと」
「とれたてやで」
「くものもと?」
「とれたて?」
「よく見てな」
「よう見とき」
テキパキテキパキ
手でちぎる
グルグルグルグル
手を回す
大きい人が形を作り
小さい人が色つける
息ピッタリの
不思議なうごき
ずっと見ている妹を
僕は抱っこし持ち上げる
「おまちどうさま」
「おまっとおさん」
ツヤツヤツヤツヤ
ピカピカピカピカ
渡された綿あめは
可愛く小さなひと口サイズ
それは虹と亀のあめ細工
「ちっさあなったら
かむんやで」
よくわからないけど頷いた
「ありがとう」
「おおきに」
僕らは綿あめ片手に
手を振った
機嫌が直った妹と
また手をつないで歩き出す
とても不思議な綿あめは
あまい果実のような味
「あまいね」
「うん」
すると妹立ち止まり
僕もつられて立ち止まる
急に僕らの目の前に
大きな大きな虹の橋
てっぺんからは可愛い亀が
滑るように下りてきた
僕らが持ってる綿あめと
同じ形の虹と亀
「ふしぎだね」
「ふしぎだね」
亀が少しかがんでくれた
乗っていいよとこちらを見てる
「のってみる?」
「のってみる!」
妹をおしあげ亀に乗せ
僕も背中によじのぼる
すると亀はノソノソのぼりだす
虹の橋を上がってく
フワフワ背中にしがみつき
妹、綿あめ眺めてる
「食べたら消えちゃう?」
「わかんない」
妹はまた口をとがらせた
やがて亀はてっぺん越えて
ゆっくりゆっくり下りだす
大きな大きな滑り台
流れる街の景色も見ずに
まだ綿あめ眺めてる
やがて亀は静かに着地
まだ綿あめ眺めてる
うつむく妹見て困る
僕を亀がつっついた
亀が口をパクパク動かし
僕の綿あめ見つめてる
僕はあの声を思い出す
「ねえ、見てて」
僕は綿あめ噛んでみた
カリッ!
パァ~~~ン!
大きな亀が光とともに
空いっぱいに広がった
宝石みたいにキラキラと
空一面に花開く
「わあ~はなび~」
「わあ~はなび~」
綿あめ頬張り妹も
僕を見つめて頷いた
カリッ!
パァ~~~ン!
七色の光の粒
流れ星のように降り注ぐ
小さな粒が
大きな宇宙に
「わあ~きれい」
「わあ~きれい」
やがて光の粒が消えてくと
向こうの角から優しい影
「ママ~」
「ママ~」
不思議だね
不思議だね
お疲れ様でした。