博士。
人にはなぜ寿命じゅみょうがあるのですか？
 
私はその答えを知りません。
なぜ教えてくれなかったのですか？
 
他の全てのことは、
私に惜おしみなく教えてくれたのに。
 
何度問いただしても、
ただ微笑ほほえみながら博士は逝いってしまった。
 
ロボットの私だけ残して。
 
私はどうしたらいいのですか？
これから何をすればいいのですか？
 
私は博士を守れなかった。
博士の病気を治せなかった。
 
病気。
 
そうか病気。
わかりました博士。
 
私がやるべきこと。
待っていて下さい博士。
 
私は必ずやり遂とげます。
 
 【10年後】
 
博士。
ついにこの時が。
 
完成まで随分ずいぶん時間がかかりました。
博士の身体データは大変研究に役立ちました。
 
これでやっと博士に近づけました。
 
博士の病気に酷似こくじした症状しょうじょうを引き起こす、
ロボット用ウイルスがついに完成しました。
 
私が発症はっしょうするまで約2年かかりました。
現在は、徐々に私の機能は失われています。
 
足が。
次に目が。
 
やがてエネルギー効率が悪くなり、
記憶が無作為むさくいに消去され始めました。
 
私が何者なのか、認識も明確ではありません。
そして、もう私がこの場所から動くことはないでしょう。
 
あの時の、博士のように。
 
博士と同じ病気になり、
わかったことがあります。
 
それは最期の微笑ほほえみの意味。

大切な記憶。 

私は記憶と共に、
博士の元へ逝いきます。

その時はもう一度、
微笑ほほえみ返してくださいね。
 
ハカｾ…