見出し画像

昔話なお宿 ~おかえり~

前回はこちら。 

古めかしい老舗旅館に、
泊まりに来た男性。
 
宿の独特なサービスに、
戸惑うことばかり。
 
果たして男性は…
無事に帰れるのか…。


 
お部屋。
 
ピピピピッ
ピピピピッ
ピピピピッ
 
スマホの目覚まし。
 
ピピピピッ
ピピッ
 
昨日のつかれからか、
男性に起きる気配はない。
 
「ムニャムニャ…
 金のサメ…?
 銀のサメ…?
 どっちもいらないです…
 ムニャムニャ…」
 
朝食提供の時間が間もなく終了し、
チェックアウトの時間になろうとしていた。
 
気持ち良さげに、
寝返りをうつ男性…
 
すると、時計が10時を指す。

うすドーーーーン!!

男性の右後頭部に、
うすしたタライが、
再び、クリティカルヒット!
 
「イタタタ…
 なんだなんだ。
 
 もう朝?
 
 ん?何だこれ?
  またタライ?

 あれ?
  また何か入ってるな…。
 
 また見たことない飲み物…。
 なになに…。
 
 メガシャク?
 
 メガシャキじゃなくて?
 
 眠気スッキリ、爽快持続そうかいじぞく
 千円ポッキリ、持続可能な社会…
 意味わからん。
 
 サメエキス配合…
 うん、だよね。
 
 名前の時点で、だと思った。
 
 サメ…徹底てっていしてるなあ」
 
男性はドリンクを飲み干す。
 
「あ~スッキリした!
 
 もうこんな時間?
 
 ヤバい!
 チェックアウトの時間だ!
 
 朝食食べれなかったか~。
 
 仕方ない。
 急いで荷物まとめないと」
 
男性は私物をかき集めて、
カバンの中に詰め込んだ。
 
そのまま部屋を出ると、
軽快にサメの池を飛び越えた。
 
カウンター。
 
「すいません。
 お世話になりました。
 アカナメの間、精算お願いします
「おはようございます、お客様。
 ぐっすり休まれてたようなので、
 お声掛けしませんでした」
 
「おかげでぐっすり眠れました。
 
 まあ頼んでおいたモーニングコールが、
 まさか電話じゃなくてうすとは、
 思いませんでしたけど。
 
 でもほんと久しぶりですよ。
 こんなに眠ったの。
 
 それにさっきのドリンクのおかげで、
 目覚めも最高です!」
「それは何よりです。
 お客様、朝食は取られなかったのですね」
 
「ほんとは食べたかったんですけど。
 列車の時間もありますので」
「それでしたら、こちらをどうぞ」
 
「これは?」
おにぎりです
 
「わざわざ、僕のために?」
「はい」
 
「ちなみに中身は?」
サメです
 
「ありがとうございます。
 移動中に頂きます。
 1泊でしたが…
 ほんとお世話になりました」
「いえいえ、大したお世話もできず。
 そう言えばわたくし
 大事なことを忘れてました
 
スタッフルームに消えた女将は、
とてつもなく大きなものを、
引っ張り出してきた。
 
「これは?!」
お土産でございます。
 
 こちらの大きな金のツヅラと、
 さらに大きな銀のツヅラ。
 
 どちらがよろしいですか?」
遠慮えんりょしておきます。
 
 持ち帰れませんし、
 どちらを選んでも、
 とんでもないものが出てきそうなので。
 
 しかもどっちのツヅラも、
 さっきからカタカタ動いてますけど
 
「そうですか。
 それは残念です。
 金ならひとつ、銀なら5個で、
 サメの缶詰を差し上げましたのに

「森永システム!
 銀を選ぶ利点がわかりません!
 それにそのサメの缶詰、
 売店でも売ってますよね?」
 
「そうですか、残念です。
 お客様がそこまで言われるのなら、
 この小さなツヅラプレゼントいたします」
「相変わらず、人の話聞いてませんね。
 それにこれ、ツヅラじゃなくて、
 クーラーボックスでしょ?!」
 
「私共のお気持ちだと思って、
 お納め下さい」
「ま、まあ、そこまで言われたら…。
 
 それぐらいならかさ張らないし、
 持っていけそうなので頂きます。
 
 ありがとうございます。
 ちなみにですが…中身は?
 
フカヒレです
「徹底ぶりが、流石です」
 
「お客様、ご利用ありがとうございました。
 またのお越しをお待ちしております」
 
男性は玄関でくつに履き替える。

うすドーーーーン!!

タライが落ちてくることは、
男性にはわかっていた。
 
これはもうお決まりであって、
想定内なのだと男性は待ち構えていた。
 
そしてタライの中には、
また飲み物が。
 
「女将これは?」
おにぎりには、
 お茶が必要かと思いまして」
 
タヌキ…じゃないですよね?」
「はい。
 今朝んできた天然水れた、
 麦茶になります。
 よく冷えております」
 
「僕がタヌキ茶を嫌がってたの…
 おぼえてくれてたんですね。
 
 女将。
 
 たくさんの貴重な体験…
 
 山ほどの土産話だけでも充分なのに、
 その上、お土産まで頂いちゃって…。
 
 本当にありがとうございました。
 
 きっと…
 きっと、また来ます!」
 
男性は深々とお辞儀じぎをすると、
旅館を後にした。
 
外に出て男性は、
不思議な旅館を振り返る。
 
タライに翻弄ほんろうされる僕を、
冷静に見ている女将…。
 
SASUKEサスケに出れそうな身体能力で、
サメ池を飛び越える女将…。
 
謎の茶菓子とお茶を出し、
微笑ほほえんでいる女将…。
 
やたらと下から証明を当てたがる女将…。
 
穴の中で七人の小人のように、
陽気に歌っている女将…。
 
そして男性は思った…。
 
(この旅館って…
 女将ひとりで……まさかね)
 
 
めでたしめでたし。
 
 

この記事はフィクションです。 
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

この記事が参加している募集

私の作品紹介

泊まってよかった宿

お疲れ様でした。