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喧嘩の贈り物

女性二人。
 
「お姉ちゃん、久しぶり」
「みよ、久しぶりだね」
 
実家、何年ぶり?
「就職してから帰ってないから…
 3年ぶり…かな?」
 
「盆と正月ぐらいは帰ってきなよ」
「だってみんなが、
 そこに希望休入れるんだよ。
 みんな休んだら、いったい誰が働くの?」
 
「それはそうだけど…
 お姉ちゃんだって正月休み、
 ズラして取ってるでしょ?」
「もうその日は疲労困憊ひろうこんぱい
 消耗しきって帰る気にもならない…
 というか動けません」
 
「そんなんで大丈夫?
 いつか体こわすよ」
あんた段々、
 お母さんに似てきたね

 
「そう?」
「そうだよ。
 あんた昔っから、
 お母さんにベッタリだったもね」
 
「そうかな?
 私はお母さんがいっつも、
 お姉ちゃんお姉ちゃんって、
 言ってた気がするけど」
「問題児だったからね。
 思い出した!
 あんた1回、
 マジで私に突っかかってきたこと、
 あったでしょ?

 
「いつの話?」
「あれは私が…六年生の時だ!
 私がイタズラっ子と大喧嘩おおげんかして、
 お互いアザだらけになって、
 お母さんが学校にあやまりに来た日」
 
「ん~覚えてない」
あんたの誕生日よ!
 本当はお母さん、
 あんたがリクエストした、
 唐揚げげようとしてたけど、
 学校に呼び出されて、
 相手の親と話が長引いちゃって、
 結局、作れなかったんだよね
 
「思い出した!
 そうだ!
 お母さんの唐揚げ大好きで、
 その日はいつも作ってくれるのと、
 もうひとつザクザク衣のやつを、
 作ってくれるって言われて喜んでた!」
「それがダメになって、
 散々、私に文句言ってきて…
 最後にあんた…
 私に何て言ってきたと思う?」
 
「何て言ったの?」
「怪我人の私に、
 入院すれば良かったのよ!
 って、言ったのよ」
 
「全然、覚えてない。
 本当にそんなこと言った?」
「ひどいなあ。
 ちょっかい掛けられて、
 挙句あげくてに怪我までして、
 学校では相手の親にネチネチ言われて…
 帰ってきたらあんたの暴言だよ」
 
「だってお姉ちゃんいっつも、
 誰かとめてるんだも!」
「相手がからんでくるのよ!
 仕方ないじゃない!
 私から仕掛けたことなんて、
 1度もないからね」
 
「あっ!思い出した!
 そうそう。
 あん時、お姉ちゃんもひどかった!
「何が?」
 
「私…泣いてたよね?」
「…ああ、泣いてたかも」
 
「唐揚げダメになって。
 そしたらお姉ちゃん、
 そんなのいつでも作れるじゃんって」
「言った?
 それほんと?」
 
「そうだよ。
 それに反論したら、
 私のアザをプレゼントしようか?
 ……だよ」
「それはひどいかも…。
 覚えてないけど…それはごめん。
 マジでごめん」
 
「もういいけど。
 私もちょっと忘れたたし。
 入院もちょっと言い過ぎだと思うし…」
「…まあ何ていうかさ。
 案外、お互い忘れてるね
 
「そうだね。
 相手にされたことは覚えてるのに、
 したことはキレイに忘れるんだね

「ほんとだ!
 自分のことだけは覚えてる。
 こわっ!」
 
「でもそうなんじゃない?
 自分に都合悪いことって忘れるし…
 人にされた嫌なことって残るよね?

「確かにそうだわ。
 そうだ!
 誕生日どうなったか覚えてる?」
 
「その時の誕生日?
 確かケーキ食べて…
 あれ?何かあったっけ?」
「次の日!
 お母さん唐揚げ作ってくれたでしょ?
 3種類!

 
「そうか!
 そうだそうだ!
 何で忘れてたんだろ。
 あの特別な唐揚げも、
 あれ1回きりだよね?」
「そうだよ。
 お母さん思った以上に大変で、
 あれ以来、作らなくなったんだから」
 
「懐かし~い。
 あれもう1回作ってくれないかな…
 ん?
 そう言えば…」
「どうしたの?」
 
「その日…
 お姉ちゃん…
 私にあやまってた…
「うそ?
 記憶にないよ」
 
「ううん。
 私が唐揚げ美味しいって言ってたら、
 昨日はごめんね…って。
 これあげるって…
 私に自分の唐揚げくれたの。
 …嬉しかった…」
「…ごめん。
 全く覚えてない」
 
「いいよ。
 でもお姉ちゃんたら、
 そんなに食べれないのに、
 これもこれもって次から次に…」
「私っぽいね。
 …罪悪感ざいあくかんあったんだね」
 
「何かいつも小さい口喧嘩してたけど、
 翌日にはケロッとしてたよね?
 うちら」
「そうだね。
 寝たら忘れてたんだよ、きっと…
 あっ!思い出した!」
 
「なになに?」
あんた…その日の夜!
 私が寝てた時…

 
「なに?!」
私のベッドに来て…
 怪我したところに、
 いっぱい絆創膏ばんそうこうったでしょ!

 
「え!?
 覚えてないよ。
 お母さんじゃないの?」
お母さんがあんな、
 下手くそな貼り方しません。
 何枚も重なってヒトデみたいに、
 なってたんだから

 
「…私…かな?」
「あんただよ。
 でも私もおもしろくって、
 そのままで学校行って、
 クラスでみんなに見せびらかした」
 
「お姉ちゃんらしい。
 …でも私も…心配してたんだ…
「うちらって…
 何がかんだ言いながらも、
 上手くやってたんだよ」
 
「そうだね……そうだよね」
「そうだよ」
 
「そうだ。
 これ遅くなったけど、
 お姉ちゃんの就職祝い
「今頃?
 …ありがとう」
 
直接、渡したかったから…
「…ありがと。
 じゃあ、私も。
 卒業おめでとう
 
「え?!
 …お姉ちゃん…
 ありがとう

こちらこそ
 
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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