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冬佳彰 ショートショート

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冬佳彰のショートショートマガジンです。奇妙な味わいのショートショートを目指しています。
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記事一覧

時代掌編 『さみだれ佐平』

 ………どんな小さなものにも命って奴はある。  深川は冬木町の暗がりで、佐平は考えていた…

冬 佳彰
10日前
6

ショートショート 『不眠者の見る夢』

 地下9階、区画215に由子は眠っている。  深夜3時、僕は仮眠室を出て廊下を渡り、エレベータ…

冬 佳彰
2週間前
9

ショートショート 『彼の食卓』

「確かに、あの記事は舌足らずだったと思っている」  亀本は言った。「暇を持て余す奴らが切…

冬 佳彰
3週間前
7

ショートショート 『戦線離脱』

 塹壕の中は湿っていた。  ショベルで掘る時に千切ったのだろう、土壁の中、何かの幼虫の片…

冬 佳彰
1か月前
11

ショートショート 『戦場のピノッキオ』

 焦げた臭いが大気に充満していた。火薬と、何かが腐敗している臭いがそれに混じっている。 …

冬 佳彰
2か月前
13

SF短編 『ペルソナ・ノン・グラータ』

 灼熱の夏だった。  僕はある都市の、比較的名前の知られた美大の学生だった。  ただし大学…

冬 佳彰
2か月前
12

ショートショート 『招く猫』

 その客が来たのは、午後の八時近くだった。  書生の速水が来客を告げ、彼は客を庭に面した応接間に通させた。  客の名刺には、「田中一郎」とのみ記されていた。所属も肩書きもない、名前だけだ。  彼は書斎の椅子にもたれかかり、  ………こんな夜更けに、初対面の男が何の用だと言うのか?  首をひねった。  彼も書生もすべての用事を終え、各々の居室ですごしている時刻だった。  ………いっそ、明日出直すよう、速水に言わせれば良かったか。  彼はそんなことを思いすらした。  突然の夜中の

ショートショート 『家婆 IE-BABA』

「そんなこと必要?」  優子は言った。 「君だって嫌じゃないか? その、居もしない老人が……

冬 佳彰
4か月前
17

ショートショート 『深夜の交番』

 その男が来たのは、深夜近い時刻だった。  酒井巡査はちょうどトイレに入っていたところだ…

冬 佳彰
5か月前
14

ショートショート 『'Round Midnight』

 ヨッちゃんが川に浮かんだのは、2日前の朝だった。  川と言っても、ドブに毛が生えた程度…

冬 佳彰
6か月前
7

ショートショート 『夏おじ』

 車のエンジンをとめると、雑木林を抜ける風の音だけが耳についた。  僕は枯れ葉の積もった…

冬 佳彰
6か月前
11

ショートショート 『11時の夜汽車』

 カーテンを細く開くと、オレンジ色の街灯の下、町は眠りにつこうとしていた。舗道に人の姿は…

冬 佳彰
6か月前
8

ショートショート 『祭りの夜』

 ずっと団地が嫌いだった。  父の仕事の関係で、僕は二年程度のスパンで幾つもの団地を住み…

冬 佳彰
7か月前
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ショートショート 『邪魔者』

 スコープの中、岡島がこちらを見た。  気づいているわけではない。窓の外に広がる夜の街をあてもなく見渡している。ガラスに映っている自分の顔を見ているだけかもしれない。憔悴した無精髭の中年男。武闘派で知られた筋モノにしては生気に乏しい顔だ。 「大丈夫だ。任せておけ」  結崎はつぶやいた。  屋上のコンクリートに固定したAWMのスナイパーライフルのトリガーに指をかける。肘から冷気と都市の震動がのぼってくる。たてかけたスマートフォンの気象データを見た。狙撃の大きな変数になる風は、現