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【朗読】秋の光を招いて

文月悠光
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季節の終わりから
こぼれてしまうことを恐れないで。

 *

星は誰かに見つけられて、光を教わる。
光はまだわたしを照らしているか?
その答えは足元にある。
地に影が伸びるのは、
光がわたしを見つけた証。
わたしは影と共に歩きながら、
かつて手を結んだもう一つのかたちを
自らの影に探し求めた。

忘れ去られた花にも花の役目がある。
人知れず果たしてきた人生の責務。
闇夜の気配に振りかえると 木々は遠く、
もう随分と長く歩いてきたようだ。
日に焼けた本のページをさかのぼれば、
ひとりでは読み解けなかった項目の数々。
誰かと寄りそい合った記憶、
道の途中で別れた人々の痕跡は、
あちこちで愛おしく光りはじめた。

夜の闇に何度飲まれても
わたしはかならず息を吹き返し、
記憶のない朝に目覚めた。
波間から浮上する舟のように、
道を切りひらく。
季節の終わりから
こぼれてしまうことを恐れないで。
なだらかなうろこ雲へ手を伸ばし、
懐かしい秋の光を招いてみよう。
この目で見つけた、
あなたの光を信じるとき
わたしは新しく影を教わる。

詩「秋の光を招いて」文月悠光


*「婦人之友」2021年9月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん

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