「夫のちんぽが入らない」の感想(ネタバレなし)

今回は「夫のちんぽが入らない」の感想を書かせていただく。

先日、夫にちんぽが入らないの原作を3周し、Netflixでドラマ版を観た。結果この作品をめちゃくちゃ好きになった。

この作品は私小説、つまり作者の実際にあった体験が小説という形式で描かれている。この本の感想を述べるということ、それは作者であるこだまさんの生きてきた人生に感想を述べるということだ。ならば生半可な気持ちでインターネットという情報の海にテキトーな感想を放出するわけにはいかないので誠心誠意感想を述べさせていただきたい。

「夫のちんぽが入らない」 著書:こだま 出版社:講談社


「え?ちんぽ?」

それがこの本との出会いだった。本屋でぶらぶらしていた私の目の端を掠めたちんぽ。え、見間違いかな?自分の眼球と脳みそを疑いながら一冊の本を手に取る。

夫のちんぽが入らない。」

え、マジでちんぽじゃん。なんだこのタイトル。

それが最初に抱いた印象だった。

この物語は同じアパートで暮らしている彼と出会うところから始まる。彼と付き合うことになり初めて交わろうとした夜、彼のちんぽが入らないことに気づく。

でん、ででん、でん。まるで陰部を拳で叩かれているような振動が続いた。なぜだか激しく叩かれている。(本文より)

ちんぽが入らないまま時は過ぎ夫婦として暮らしていく二人。夫のちんぽはいつか入るのか。ちんぽに振り回され痛々しいほど「普通」に苦しめられながらも歩み続けるとある女性の物語。

以上、自分なりにあらすじを書いてみた。

さて、ここからは本題の感想を書いていこうと思う。主人公とその旦那様の名前はドラマ版から借りて「クミコ」「ケンイチ」と書かせていただく。

まず最初にこの本を読んで驚いたのは日常の描写の切れ味がすごいところだ。あまりにもオープンかつ大胆。文章の刀で自分自身の心身を切り刻んでるかのような切れ味。作者自身の恥ずかしいことも苦しいことも嬉しいことも、その全てを文章に刻んでいる。

結論。この作品は「ちんぽ」と「ズレ」と「決意」の物語であると思う。

この物語は双葉荘というオンボロアパートでクミコとケンイチが出会うところから始まる。田舎から出てきて何も準備のできていないクミコの部屋に勝手に上がり込み本人よりも先に部屋に馴染む自由奔放なケンイチ。この青年と付き合うことになり、ここでタイトルの「ちんぽ」にスポットが当たりついにちんぽを入れるときがくる。結果はタイトルの通りだ。ちんぽが入らないのである。

後に夫婦になるこの二人の関係は唯一無二、夫婦という言葉だけでは言い表すことはできない。クミコとケンイチの関係は恋人であり、友達であり、まるで兄妹であり、だがしかし”夫婦”である。

だがしかし、というのは使い方がおかしいのかもしれない。ただこの物語を語る上で重要な部分はケンイチとクミコの関係が世間から見れば夫婦であるということだ。友達や兄弟のような関係といくら周りに説明しても世間からは夫婦として見られる。普通の夫婦はセックスをしているだろうし、普通の夫婦は子供を産むだろうと思われている。

だが、夫のちんぽが入らない。

夫婦としてできているはずのことができない。普通の夫婦。夫婦の普通。そんな普通のナイフに刺されて、刺されて、刺されまくる。血だらけである。いろんな意味で。

余計かもしれないがここで自分語りをさせてほしい。私も世間や周囲の人々の普通の鋭さとそれに刺されたときの痛みを知っている。なぜなら私はゲイだからだ。マイノリティである私たち同性愛者は法律が変わらない限り、結婚はもちろんのこと子供を産み育てることはまだ厳しいのが現状である。

どんなに夫婦になりたくても法律の上では他人であるし、偏見は少なくなっているとは思うが性的指向を他人にオープンに話し辛い場面もまだまだ多いと思う。

「そのうち結婚したくなる」「孫の顔が楽しみだ」「そういえば彼女できた?」など悪意のないナイフは突然飛んでくる。

もちろんそれはモロにブッ刺さる。「いい人がいたらね。」「今は興味ない。」などとその場凌ぎの答えは返せるけれど、チクっと胸が痛む。そして自分が普通ではないんだと突きつけられているように感じられる。なぜなら大抵そのナイフを投げている本人には悪意がないからである。同じような痛みを受けたことがあるからこそクミコが感じていた痛みに心が反応したのかもしれない。

もちろん私のような性的マイノリティだけはなく、持病だったり人種だったり育った環境だったりマジョリティではない性質を持ち、本人が普通とはズレてるなと思っている場合はそういった”痛み”に共感できるところがあるのではないだろうか。

また、特に印象に残っているのは劇中のズレている登場人物のインパクトと生々しいエピソードだ。

ケンイチを始め、この登場人物のクセの強さは半端ではない。クミコの両親、クミコがネットを通じて出会ったヤベえ男たち、教師であるクミコが担任をした学級崩壊をしているクラスのリーダーであるミユキなど。この登場人物達とクミコの関わりがマジで面白い。(語彙力皆無)

出会いの一つひとつががぶっ飛んでいて、クセのレパートリーが半端じゃない。本当にこれが実際に起こった話なのか・・・と軽く引くくらいには描写が生々しい。

そしてその生々しい表現こそ決意の表れなのだろう。冒頭でも触れたがこの作品は作者の体験談が小説風に描かれている私小説である。自分の体験をこれでもかと曝け出し、それをユーモラスに炸裂させ、1つの小説として昇華させている。ナイフの鋭さを遥かに超えて、まさに決意のマシンガンである。

ちんぽにズタズタにされ、普通にズタズタにされ、とにかくズタズタにされるクミコ。そんな彼女が一人の女性としてどのような道を歩んでいくのか。その結末をぜひ見届けてほしい。


以上です。ありがとうございました。

































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