柳下毅一郎のnote

特殊翻訳家

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最近の記事

映画ライター今昔物語

(本原稿は文を紡ぎ編む人たちの Advent Calendar 2022 に参加しています。) https://adventar.org/calendars/8176  映画評論家というのは今も昔も試写を見に行ってその評を書くごく地味な仕事である。映画会社の中にある試写室で、公開の数ヶ月前からはじまる「マスコミ向け試写」というのは業界関係者だけが参入できる秘儀、業界の既得権益にして映画評論家の特権なわけで、それをもって羨まれることも多い。まあ人より早く、金を払わずに映画を見

    • 雲のうえ

       きっかけは北九州にでかけたことである。  ぼくの数十年来の友人、LA在住のアーティスト瑪瑙ルンナ氏についてのドキュメンタリーWho is Lun*na Menoh?が、門司で開かれる映画祭Rising Sun Film Festivalでワールドプレミアになるというので、応援を兼ねて見に行ったのである。映画祭は謎に満ちていて、いまだになんだったのかよくわからない(どうも北九州在住の外国人が中心になってやっているようなのだが……)。だが、映画はとっても楽しかったし、小倉も門司

      • アラン・ムーアのハッピーハッピージョイジョイ

        アラン・ムーアのあの素晴らしいヘア・スタイルはいかにして作られるのか? FBのムーアオタクコミュニティによるインタビューをComicsBeat が報じるところによれば、それはLUSHのおかげである。そう、あの原色バリバリで強烈に人工的な匂いを放つので悪名高いバス用品メーカーだ。ムーア先生のモーニングルーチンと言えばこうである。 起きる。朝飯を食う。鳥に餌をやる。けばけばしい色のLUSHのバスボムを放りこんで風呂を張る。お湯を入れるあいだに「ジャズ・シガレット」を巻き、まだ苦

        • すべての鹿サポが『旅する練習』を読むべき理由

          第164回芥川賞候補になりながら惜しくも受賞を逃した(宇佐美りんさん、おめでとうございます!)乗代雄介氏の新作『旅する練習』(講談社)はまさかの鹿島アントラーズ純文学。鹿島サポは読むべき、とめった切りコンビ(大森望&豊崎由美)にラジオで言われて素直に手にとったわけですが、本当に鹿島サポ向け小説だった! これをいちばん愛せるのは鹿サポだろ!と思ったので僭越ながらその鹿サポ的見どころを紹介いたします。鹿島を愛するひと、ジーコを愛するひとすべてに読んでいただきたい。もちろん鹿島こそ

        映画ライター今昔物語

          #01 Ronald Reagan the magazine of poetry

          #墓場まで持っていく100のもの ついに! 「なぜわたしはロナルド・レーガンをファックしたいのか」はJ・G・バラードのもっとも悪名高き短編である。『残虐行為展覧会』の最初のアメリカ版を出版するはずだったダブルデイ社の重役は、たまたま届いた新刊見本でこの短編を見てしまったがために、「こんな本をうちの出版社で出せるか!」と印刷済みの全部数を廃棄させたという。短編自体の初出はジョン・スラデックとパメラ・ゾリーン(トマス・ディッシュを加えた三人で同居中だった)の共同編集になるRo

          #01 Ronald Reagan the magazine of poetry

          本を食って生きている

           これまで読んだ最高の短編小説は何かと訊ねられたら、迷うことなくジーン・ウルフの「デス博士の島その他の物語」という短編を挙げる(国書刊行会より刊行の同題短編集に収録)。それはとある浜辺に住む少年の話である。母親に顧みられない少年はいつも一人で本を読んでいる。孤独な少年の友達はその本の登場人物だけなのだ。物語の終わり、少年は悪漢のデス博士に語りかける。「この本、もうあと読みたくないよ。博士はきっと最後に死んでしまうんだもん」  デス博士は答える。 「だけど、また本を最初から読み

          本を食って生きている

          どこかの映画館の怪獣映画特集のために書いた雑文

           怪獣たちとのつきあいは長い。思えば生まれてはじめて映画館で見た映画が『三大怪獣・地球最大の決戦』だった。モスラがゴジラやラドンを説得したりするんだが、なんたってキングギドラの本邦初登場作品。まがまがしいまでに美しく、誰よりも強いキングギドラの雄姿! あの姿に魅せられた瞬間、ぼくの人生は決まった。そうだ、ぼくも大きくなったら立派な怪獣になって、東京タワーを壊すんだ!  ぼくは怪獣になりたかったし、いつだって怪獣が好きだった。口から炎を吐き、高いビルを叩きつぶしてやりたかった

          どこかの映画館の怪獣映画特集のために書いた雑文